絶対に忘れないこと

母と散歩に出た。「まだ、こない人がいる」と母。「私たちだけしか散歩にいかないから」と母にいった。
母は父と散歩できると思ってたみたい。私たちだけ。私たちだけしかいないよ、と。
散歩から帰り、家に入る時、
「パパは家で寝てるかしら？」と。
「いないよ」と、私はこたえたけど。母には聞こえなかったのか。
家の中を探しまわろうとしてて。
「パパはいないよ。今、入院してるから、家にいないよ」といった。
母は「どうして、そんな重大なこと、教えてくれないの」と。
本当のところ、父は亡くなったし、母は葬式にいったのに忘れてしまってるだけで。ただ、母が忘れてるから、父が亡くなったこと教えてショックを受けさせたくないから、入院してると説明してる。
入院してると言っても、すぐに忘れてしまう。認知症だから。だけど、母は絶対忘れないことがある。それは父の奥さんだと言うこと。父を探すこと。これだけは 認知症になっても忘れない。
一瞬、母の車イスを押す、私の視線が父になった。母と、ほんの一瞬だけ、いた気がした。
父の亡霊、母がこれだけ父を探してるの見たら、やっぱ嬉しいかな。
来世でも、どうか再び、めぐりあい。再び夫婦になれますように、って。