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2018年07月13日12:46

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クラナドSS  ー斑藤ー 2


聞こえる

ざざざざ

ざざざざざざ

ざざざざざざざざざざざざ

ざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざ

ざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざ

ざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざ
ざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざ
ざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざ
ざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざ
ざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざ

ざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざ



「いやぁ!!!」

飛び起きた杏。息は荒い。肩で呼吸する。
髪は乱れ、パジャマは汗でぐしゃぐしゃだ。涙も流している。

よほど大きな声を出したのか家族全員が飛んできた。何事かと聞いたが杏は悪夢を見たと一言でそのあとは口にしない。
しかし、夢とは奇っ怪なもので今の今まで覚えていたものが次にはすでに靄がかかったかのように覚えていない。杏も今の悪夢がなんだったのか忘れてしまっていた。普通ならその程度と捨てる杏だが、その悪夢の片鱗が体に巻き付いてるかのような錯覚に陥り両腕で自身の身体を抱き、震える。

あのおぞましい夢はなんだったのか。
杏はもう眠れそうにない。
居ても立ってもいられなくなった杏は朋也にメールするが時間は午前三時。起きているはずもなく朋也からの返信はない。当たり前なのは杏にもわかっている。だが、誰かに話さないとあのもはやなんの夢だか覚えていない悪夢を見るのかもしれない。もしかしたら、それが正夢になって後ろから…………



「あっはっはっはっはっ!」
彼氏は笑い飛ばした。
翌日、その話をしたところ盛大に笑い飛ばされた。自分があのような恐怖に悩まされているのにそのように笑い飛ばされるのは不快である。嗚呼、不快である。
「いやいや。あの杏が悪夢で悩むとはぁね」
「……殺すわよ?」
「まぁまてまて。その辞書しまえって。痛いから。当たると痛いから。直殴りはもっといたぃ………ッッヅ!!」
制止する朋也の声を無視して杏の辞書は朋也の脳天を割っていた。
こうもなると杏は夢の事をどうでもよくなる。
実に不快である。そのひとつのみ。
「あーいててて。どうだ。少しは気ィ楽になったか?」
「……ふん。」
これが朋也なりの気の紛らわし方だと知った杏は何も言えなくなった。嬉しいが弄ばれた感がして悔しい。
会話もそこそこに二人は勉強のために別れた。片方は塾へ、片方は学校へ。蝉時雨、遠くに見えるは天高い入道雲。
そして聞こえる。

ざざざざざざ……
ざざざざ…

波の音。否、風で樹の葉が揺れる音だ。

杏は何かを思い出したかのようにハッとした。そして、蝉時雨が遠く感じ、まるで自分がいる世界が違うような違和感を覚える。

「……。」

揺れる樹の葉を見ながら足早にそこを去った。
その日の杏は心此処に有らずだった。塾の講義中でもノートをじっと見続けたまま上の空。
善きライバルに話しかけられても生返事。

「藤林?」
「……」
「藤林ーー。おーい」
「んーーーぅ?」
「どうした?なんかあったか?
「………んーー。」
「だーめだこりゃ」

そのまま帰宅する。
家族の団らんも耳に入らない。部屋に戻り、倒れるままベッドにはいる。
そのまま眠ってしまった。

ざざざざ…

また聞こえる。

ざざざざ…。

遠くからゆっくりと、確実に。

ざざざざざざざざ
ざざざざざざざざざざざざ

気味の悪さを覚える。
夢なのは自覚している。今度こそ、この夢の正体を見る。

見慣れた風景。それはこの町だ。
自分が生まれ、育ち、生きる町だ。
大好きな町。
だけど誰もいない。自分以外誰もいない。
聞こえてくるは、あの音。

ざざざざ…

その場に立ち尽くす。
見えた!

「ひぃ!!」

声をあげた。
そして逃げた。『モノ』から逃げた。
あれはなに?
なんのかたまり?
あれがあたしの悪夢?
気持ち悪い。
気持ち悪い。
気持ち悪い!気持ち悪い!気持ち悪い!気持ち悪い!気持ち悪い!気持ち悪い!気持ち悪い!気持ち悪い!気持ち悪い!気持ち悪い!気持ち悪い!気持ち悪い!気持ち悪い!気持ち悪い!気持ち悪い!気持ち悪い!気持ち悪い!気持ち悪い!気持ち悪い!気持ち悪い!

妹の声が聞こえた。
嗚呼。ようやく夢から覚める。
白の蛍光灯の強い光が眼に飛び込むその瞬間。
声が聞こえた。
野太く。低く、響くように。



  ※

カツンカツンとリノリウムの床を歩く音が聞こえる。耳は聞こえど、目が開かず音だけで何があるのが判断する。だが、あらゆる音と、喧騒で何があるのか誰がいるのか、また距離感も掴めない。
視覚障害者のスゴさが理解できた。
愛しい妹の声が聞こえる。だが目が開かない。
違う。開けているのだ。
目を。
開けているのに見えるのは白い世界。
何故?
妹の声が聞こえる。
声が出ていない。必死に声を出そうにもまるで空気が抜けるような感覚で、声帯など無いような感覚で『消えていく』
声は出ないが耳は聞こえた。
回りの声に傾けるも自分にはよく理解が出来ていない。
あまりに聞き取れないので傾けるのを諦めた。
どっと疲れた。
そして私はまた白の柔らかさに沈んでいった


   ※

二学期の中間テスト、朋也は順位を格段に伸ばしていた。前回67位が50位へ。学内考査で中堅私立を狙えるほどになった。この伸びに担任の乾は溢れんばかりの笑顔だ。
春原の順位も所謂Fランクに入れるほどになり周りを驚かしてばかりだ。
「中堅私立を狙えるほどらしい」
朋也は校内考査のプリントを見ながら呟く。
「伸びるわねぇ。流石はあたしの彼氏!」
「へぇへ。春原は?」
「80位。進学組の底辺さ。でも、学内考査じゃ狙ってる商業大学にはなんとか行けそうだよ」
「ふむ。杏は?」
「あたし?あたしは…43位。朋也と同じく中堅大学かしらね」
「正直、俺はこれくらいで良いと思うんだ」
朋也の言葉に疑問を抱く。
「ん?」
「あ、いや。うちはなんというか、格別難関大学に行きたい訳じゃない。ただこのまま腐るのが嫌だった。Fランでも良いから大学に行きたかった。それだけなんだ」
「ふむ?」
「そりゃ頑張っただけ結果が出るのは楽しい、嬉しいけど」
「けど、なに?」
「あんまり勉強に縛られ過ぎるのもなぁってな」
「なるほどねぇ。確かに、無理して難関大学行って自分の夢に近づけるかどうかはわからないし、その学校で落ちぶれちゃうかもしれないね。僕らみたいに」
ケラケラと笑う春原に杏は釘を刺した。
「落ちぶれるはともかく、今の順位を維持あるいは上げないと大学に入れないわよ?」
「あぁ。それはわかってるよ。んで?岡崎と杏は大学に入ったら何がしたいの?」
「……そう言えばそうだな」
「あたしは保育士目指してるけどね」
「杏が保育士……。狂暴な園児ができそうだね」
「死ぬ?」
「ヅっ!」
返答待たずに春原の側頭部に杏の辞書がめり込む。
「大学に入ったら何したいか。考えてなかったな」
朋也は学内考査の紙をしみじみ見ながら呟く。
元々大学に行く気など無かったが何の心変わりか大学に行くことを目指した。
「陽平。あんたは大学入って何する気なの?」
「ボク?ぼくはまたサッカーやりたいなぁ。勉強のと両立は難しいけど……」
「スポーツ……」
「岡崎の肩って二度と治らないの?」
「水平まではなんとかなる。そこから上は激しい痛みが走るんだ。治すのも厳しいかもな」
「かもなって、病院行ってないの?」
「ああ」
「行ってみたら?もしかしたら治せるかもよ?」
「……」
「陽平」
「ん?」
「そっから先はプライベートな事よ」
杏は病院に行くことを推そうとする春原を制止させた。春原も空気を読んだかそれ以上なにも言わなかった。ただ一言だけ
「どんなことでも可能性をゼロとして考えちゃいけないよ」
と残した。


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