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2017年12月07日21:59

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武道随感  剣道と薙刀、ついでに柔道も経験ある僕が言っておきますが

 このニュースで驚きなのは、『薙刀が勝つ』ということがニュースになったことである。今までは『剣道が勝つ』ということの方がトピックとして取りあげられていたものだ。これは察するに、乃木坂46の『あさひなぐ』効果というべきものなのか?

 ともあれ、基本的には『剣道vs薙刀』の試合というのは、基本的には『薙刀の圧倒的有利』なのです。

 一つにはリーチの長さ。もう一つは、薙刀では有効打突部位だけど、剣道ではない『脛』の存在。この二つの条件で、剣道は薙刀相手では、自身の間合いに入る前に防御慣れしていない脛を打たれる、というケースで負けるのが常道でした。剣道経験者の僕が薙刀をやる前に、薙刀をやっていた奥さんと向かい合って書いた日記を抜粋してみます。

『 そもそも薙刀と剣道では、有効部位の数が全然違う。薙刀が左右、正面の面、両小手、両胴、両内脛、両外脛、咽喉と有効部位がもの凄く多いのに対して、剣道では左右面を余り取る傾向になく、小手と胴も多くは右に偏っている。突きを加えても剣道の主な有効部位が4ヶ所なのに対して、薙刀では12ヶ所! これは大きな違いである。特に脛の攻撃は剣道では皆無なため、多くの剣道家がこれに敗れるという。

 以前、奥さんに付き合って薙刀の受け太刀をやってみたことがあるのだが、その攻撃は左右上下に変幻自在、上に振りかぶっているのに下に攻撃が飛び、左右の攻撃は視界の外からやってくる。おまけに長く使うことも短く使うことも可能で、間合いを詰めても対応され、こちらからは打ち込めない遠間からでも攻撃はくる。実際、対峙するとこれほど厄介な相手はいない。
 さらに言えば、自分が使う側になってみると、長い武器なだけに身体で振らないと自由に扱うことができない。つい腕の筋肉だけで振りがちな剣に比べると、必要とされる体裁きは実に精妙さを要求される。 』

 で、その後、僕は薙刀家になったのですが、薙刀は『長い』武器であるにも関わらず、いや、そうであるがゆえに『力で振らない』武器なのです。幾つかの誤解に見られるように、『遠心力で振る』のも間違いです。遠心力のような力は、筋力を必要とするので薙刀を振るのに必要な「速さ」を出せません。

 長物を振るというと、バットを力任せに振り回す…みたいな力感を想定するのかもしれません。が、実際にはそれでは薙刀は振れません。薙刀とは、『重くて長いものを、軽く速く扱う』ことが要求される武具です。では、重くて長い薙刀をどう扱うのか?

 重い物というのは、身体から離して扱うとより重くなります。逆に言うと、「身体に近づける」ことで対象を軽くするのです。実は、これは柔道でも同じ原理です。薙刀は「身体に着ける」ように扱うことで、長い物を『軽く」扱います。

 条件のことだけを考えると、リーチが長い薙刀が勝つのは当たり前…と、簡単に考える人がいるかもしれません。けど、それも理解不足です。実は薙刀を自在に扱うのは、非常に精妙な技術であり、極めて難しい技術です。少なくとも、バットだったら誰でも相手を頭にめがけて振り下ろせますが、薙刀は目指した場所に振り下ろすだけでも非常に難しい技術を要することだけは忘れてはいけません。

 話を『剣道vs薙刀』に戻しますが、実はこれには既に、非常に有名な歴史的な事実が存在します。再び、僕の以前の日記から抜粋します。

『 明治の初め、薙刀の達人に園部秀雄先生という方がおられた。園部先生は本名は秀子というのだが、異種試合のときなど相手が女性とわかると勝負を断られるというので、「秀雄」を名乗っていたという。
 園部先生は榊原鍵吉の撃剣興行を見て「これこそ自分の進む道」と思い定め、榊原健吉に弟子入りしたという。榊原鍵吉は直心影流の達人で、現在でも薙刀界では制定型を学んだ後は、直心影流や天道流の型を学ぶことになっている。余談だが榊原鍵吉は大東流合気柔術の武田惣角も一時期弟子入りしていたという。

 さて、この園部先生だが、高名な剣道師範や剣術師範を相手に異種試合をし、なんと負けたことがなかった。剣道を少しでもやったことがある方なら、少しは判るだろう。剣道上段者に負けたことがない、というその事態の異常さを。
 今でも園部先生が型をやっている映像を目にすることができるが、先生のお弟子さんの侯爵夫人の薙刀使いですら、その早さに目が追いつかないほどである。ちなみに現在でも異種試合の交流というのは続いているのだが、今でも薙刀と剣道の試合では、俄然、薙刀の方が勝率が高いのである。 』

 園部先生の動画を貼っておきましょう。


 念のために、ですが。園部先生は薙刀を振ってる方じゃありません。薙刀を振ってるのは、お弟子さんで、剣を振ってるのが先生です。こういう型の際には、上段者の方が取られる側を努める、というのがあります。

 ここまで古くなくても、現代は便利な時代になったもので動画の資料は転がってます。


 何処でやったものか判らないけど、これは2−1で薙刀チームが勝った試合。次鋒戦以外は薙刀が勝ってるけど、薙刀に対して剣道側が、じっくり間合いを見て戦おうと思ったりすると見事に脛を打たれてしまうのが判ります。剣道の次鋒の人は、間合いを潰して薙刀の戦いをさせなかったところに勝機がありました。

 剣道側が勝った動画も貼っておきましょう。


 これは現代の薙刀高校生女子と、剣道の対決です。注意してほしいのは、薙刀女子側が「一級・二級」などなのに対し、剣道側は完全に有段者、最高で「四段」まで出てることです。武道経験者なら判るかと思いますが、「級」の人と、「有段者」というのは全く違います。けど、ここではこれで対等の勝負、ということくらいです。

 しかし、剣道の人が薙刀の有段者に勝てない、ということを言ってるのではありません。事前にその攻撃特質を知って、ちゃんと対策を練れば剣で薙刀に勝つこともできると思います。僕のように、剣と薙刀の双方をやって人間なら対策も練れます。ただ、初見勝負なら圧倒的に薙刀が有利、というだけです。

 付言しておきますが、『実戦なら』『真剣勝負なら』という想定にも言及しておきます。

 薙刀家というのは、常に『懐に手ぬぐい』を入れます。これは手ぬぐいが『懐刀』の代わり、と教えられます。先ほどの古流の動画の型の五本目、剣の側は接近してきた薙刀の側の薙刀を奪います。しかし薙刀の側はそこで、すかさず懐刀を取り出し相手の喉につけるのです。

 そもそもですが、戦国時代の戦場において、もっとも有効に敵を倒したのは『弓』でした。近接戦より、遠距離から仕掛けた方が相手の軍勢に打撃を与えるのに有効だったのです。この遠距離の武器の次に用いられたのは、『槍』です。

 槍は横並びなった歩兵が頭上に振り上げて、敵兵を「叩く」ようにして使うことが主でした。相手の急所を突く、なんていう精妙な技術は足軽では使いようもない技術です。そして薙刀というのは、それ以上に精妙な訓練を必要とする武器です。乱世の主武器になるには、難しすぎる武具でした。

 では『剣』は、戦場における主武器ではなかったのでしょうか? 現在の研究では、『主武器ではなかった』と言われます。むしろ剣は、『相手を倒した後に、首を刈るのに使われた』という見解もあるくらいです。けど、僕はそこまでは思ってはいません。

 最古の剣術流派・天真正伝香取神道流は、戦国の世が始まる少し前に創始されてます。香取神道流の開祖、飯笹長威斎は、勝負を挑みに来た者を、『柔らかい笹の葉の上に乗って、その精妙さを見せつけることで、勝負以前に相手に負けを認めさせて返した』という逸話が残っています。

 剣、というのは、既に精妙な域に達して、しかもある種の「精神的な高さ」を持った術技でした。ちなみに香取神道流は、剣術だけでなく、薙刀その他の武器術を有した総合武術です。戦場で戦うということは、『武器を選ばない』ということです。得意不得意などは言ってられません。より有効な武器を、その場にあるものを使ってでも生き延びることが、戦場での原則です。

 剣も主たる武器の一つだったと僕は考えてます。ただ、剣を持つ場合でも、『懐刀』を持つ、というのは基本的な装備でした。古流柔術の型では、相手を倒した後には、必ず懐刀を出すという事が型に含まれてます。それが当然の装備だったのです。

 対薙刀において、『実戦だったら、接近して倒す』というのは、その意味でも無意味な想定です。また「実戦想定」で『弓』を持ち出すのも、一対一の戦いでは必ずしも有効ではありません。弓はつがえるのに時間があり、ある程度の距離なら剣や薙刀側が距離を詰めてしまいます。

 また『薙刀を踏めばいい』という見解も、その速さを観たことがない人の意見だと言っておきましょう。そもそもですが、ちゃんと脛を狙った薙刀は、安易に踏める高さにはありません。

 『実戦なら』という想定は、こういう競技においては無意味な想定です。精妙な技術をちゃんと使える側が強い。それだけの事です。武器の有利不利は確かにありますが、それを克服する術も存在します。

 こういう異種試合では、「どっちが強い論」ではなく、双方の精妙な技術を見るのがいいと僕は思うのです。その双方とも、汗を流して稽古して、考えて練習した証がそこにあるからです。
 


なぎなた女子、剣道男子を降す
http://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=2&from=diary&id=4892893
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