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2017年07月26日21:56

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再up 山川イズム!

 尊敬する作詞家、山川さんがお亡くなりになった。僕は2008年11月に山川さんについての小論を書いているのだが、それを再upして黙とうに替えようと思う。

      * * *

 山川啓介という作詞家がいる。多くの特撮の主題歌の作詞をした山川啓介だが、一般に知られる最も有名なヒット曲といえば、岩崎宏美の歌った『聖母(マドンナ)たちのララバイ』ではないだろうか。

 「さあ眠りなさい 疲れきった体を投げ出して」で始まるこの歌は、消費社会が本格化した1982年に空前の大ヒットとなった。この歌詞内容は、経済競争が激化した80年代において「男を癒す母性的女性」を歌い、「企業戦士」などと呼ばれたサラリーマンたちの心にビビッドに響いたのである。
 この歌のヒットには岩崎宏美の大柄で長い髪を持つどこか神秘的な外見も、その「聖母」的なイメージで後押ししただろうと思われる。それはいわばミケランジェロの「ピエタ」像にも似た印象だったと言ってもいい。

 ところでこれは「敗北」の歌である。歌われているのは戦って傷つき、疲れ果てた男の魂である。

「この都会(まち)は戦場だから 男はみんな傷を負った戦士
 どうぞ心の痛みをぬぐって 小さな子供の昔に帰って 熱い胸に甘えて」

 この「敗北」は経済競争の上での敗北であると同時に、失われた「正義」の敗北でもある。むしろ「企業戦士」なるものが、学生運動という「夢」に破れた後のその後の学生たちの姿であることを考えなければいけない。
 山川啓介というのはこの『聖母たちのララバイ』では「敗北」を歌ったが、むしろその歩みは失われた「正義」に替わる新しい「正義」の準拠点探しだったといってもよい。僕はその足取りを、一人の「思想家」の思考の軌跡のように辿っていたのである。

 そのもっとも初期の現れは、「聖母」に先立つこと2年前の、八神純子の『Mr.ブルー 〜私の地球〜』に読むことができる。ここではその2番の歌詞をあげてみよう。

「故郷(ふるさと)を聞かれたら まよわず地球と答えるの
 《争い》という文字が 辞書から消え去る その日まで」

 ここで歌われてるある種の「グローバル感」というのは、マルクス主義というものを通して、全世界的な意識を持っていた全共闘世代にとってはリアルな感覚の単位だった。山川啓介は「敗北」の後に、その「革命」の理論枠組みは捨てたが、その視野の単位は形を変えて残したといってもいい。
 
 山川啓介の「正義」の準拠点の開拓は、特撮の歌詞によって開花される。山川は『バトルフィーバーJ』『太陽戦隊サンバルカン』の主題歌の作詞も手がけているが、その理念性が最も顕著に現れた作品は、82年の『宇宙刑事ギャバン』だろう。

「男なんだろ? ぐずぐずするなよ 胸のエンジンに火をつけろ」

 から始まる「男」を強調したその歌詞は、そこにグローバル感だけではなく、一つの「役割使命」をそこに託している。それは役割としての「正義」の、「あるべき姿」としての「男」なのである。
 この「男」が果たすべき使命は、2番の歌詞で構造的に明確化される。

「悪い奴らは天使の顔をして 心で爪を研いでるものさ
 俺もお前も名もない花を 踏みつけられない男になるのさ」

 ここでは倒すべき「悪」が定義され、さらに正義の存在の「あるべき心構え」が語られている。それは「名もなき花=一般の弱者」を踏みつけたりしない、むしろそれを守れる人間になるのだという意志表明である。

 この論理展開は、次作の『宇宙刑事シャリバン』によってさらなる先鋭化を遂げる。これは少し長いが、実に本質を捉えた歌詞なので長く引用してみよう。

「強いやつほど笑顔は優しい だって強さは愛だもの
 お前と同じさ 握った拳は 誰かの幸せ守るため」…続いて2番
「夜空に輝く小さな星でも きっと誰かが祈ってる
 お前と同じさ 明日が今日より いい日になれと祈ってる」

 1番のラストフレーズは「俺たち男さ」だが、2番の方は「俺たち仲間さ」で終わる。「男」という、他者を守るために強くあるものと、そしてその守る対象への共同意識。この「山川イズム」と僕が名づけた、新しい「正義」の指針がここにはある。それは「敗北」の後に模索された、新しい倫理と態度のあり方だったのだ。

 この後の作品である『ジャスピオン』『スピルバン』の歌詞では、その「男」が、正義を行使するための「強さ」が強調される。ジャスピオンでは「俺が正義だ」と語り、スピルバンでは「俺の怒りは爆発寸前」となる。 
 しかしここにはまだ「男」「女」と言う役割分担と同時に、ある意味での性差別が残存している。80年代はそれでもよかったが、90年代に入り女性の社会進出が当然の社会が到来すると、さすがにそれは厳しい態度といわざるをえない。

 そしてまた「女性」と言う生来的に弱い存在ならば、それは「正義」たりうる事はできないのだろうか、という問いを呼び起こす。「女性」はいつまでたっても、「強者」に守られる存在なのだろうか。
 さらにそれは「強さ=正義」なのか、という疑問を呼び起こさざるをえない。真に必要なのは「強さ」だったのだろうか? それが本当に「正義」だったのだろうか。

 ここで一つの転機になるのが『世界忍者戦ジライヤ』の歌詞である。この歌詞では「役割」や「強さ」を捨て、もっと本質的な中核を掴もうとする意図が見受けられる。

「この地球を抱きとめる そんなでっかい心が欲しい
 誰もみんな幸せに 輝いてる未来が欲しい
 戦うのさ お前の弱さと 若さの剣をうならせて」

 ここで戦う相手は、「心で爪を研いでるやつら」ではない。むしろそれは「自分の弱さ」に替わっている。それはどんな「弱さ」なのか? その弱さとは、「でっかい心」を持てない弱さ、自分のことばかりを考え「祈っている誰か」のことを考えられないような「弱さ」なのである。
 ここにおいて「戦い」とは、むしろ内面的なものになっていくのだろうか。しかし、そうではなかった。その力が、「誰か」を助けることに向かわなければ、それは単なる自己満足である。その力を「誰か」に向けること、特にその「命」に向けることが、次作の『機動刑事ジバン』では改めて取り上げられる。

「光りが激しく降りそそぐ 生きてるわけを問いかける
 判っているさ愛するものを 自分を捨てても守るんだ」

 「光が激しく降りそそぐ」ほどの、自己の存在意義への問い。それは苛烈にして、厳格な問いである。その答えのなかに、「愛」が含まれる。「誰か」という他者を志向する愛がなければ、それは単なる自己強化、強者願望に過ぎない。
 他者を志向しないそのような「強者」とは、そもそも「心で爪を研いでる」ような者たち=つまり権力者や虐待者ではなかったか? その答えを、2番の歌詞において、山川啓介はこう表現している。

「心に愛がなかったら ただのゲームさ戦いも
 君の微笑み美しいから 大きな敵にも勝てるんだ」

 誰が優位にたち、誰が損をするか? 真の「戦い」とは、そういう「ゲーム」ではない。それは「競技」や「市場」のゲームである。しかし真の戦いは、それらの外にある。

 『機動刑事ジバン』が終わって始まった『特警ウィンスペクター』は、「レスキューポリス・シリーズ」と呼ばれるものの第一作となった。それは今までの「悪を倒すヒーロー」ではなく、「災害において人々を救うヒーロー」という前代未聞の特撮作品となったのである。
 この番組側から提示された「新たなヒーロー像」は、山川啓介の歌詞にも影響を与えた。

「みんなの微笑み戻るなら どんな辛さも超えるのさ
 地球を救え 勇気と知恵で 未来を救え 大きな夢で」

 これが1番の歌詞である。これは基本的に今までの山川イズムを踏襲した路線だと言ってもいい。しかし興味深いのは2番の歌詞である。

「戦いの痛み苦しみは 俺たちだけが知ればいい
 地球を救え 悪の手から 未来を救え あやまちから」

 ここで注目すべきは、「あやまち」からも未来を救おうという、その姿勢である。それまで山川イズムの歌詞には、「あやまち」というものは出てこなかった。敵となるのは悪意を持つ「やつら」だけだったのである。
 しかしここでは未来を危機に落とす原因を、「悪」にだけ求めてはいない。そこに「あやまち」が介在しうることを認識し、そして「あやまち」からも未来を救いたいという、より踏み込んだ願いが込められているのである。

 ここにおいて「戦い」とは、単に敵対してるものとだけの戦いではなくなる。「あやまち」とは誰もが陥る可能性のあるものである。自分自身もまた「強く」なければ、その「あやまち」に陥るだろう。
 そのような「強さ」を、山川イズムは新たな時代の「正義」として提示した。そして歌詞を聴いて育った僕らの心に、その魂は宿っている。真に「名もない花を踏みつけられない」人間になるのは、実は「自己との戦い」ともいえる苛烈な道なのだ。山川啓介は厳格な態度で、その事を教えてくれたのである。

 最後に『宇宙刑事シャリバン』の歌を。「笑顔が優しい」強さを身につけられるように。






■山川啓介氏死去=作詞家「聖母たちのララバイ」、72歳
(時事通信社 - 07月26日 20:00)
http://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=4&from=diary&id=4687559
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