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2014年11月29日21:16

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鳥嶋和彦語録

もう何か月も前になるのですが、NHKでSWITCHインタビュー 達人達(たち)「鳥嶋和彦×加藤隆生〜ヒットを生むコツ!」という番組を放映しました。
http://www4.nhk.or.jp/switch-int/x/2014-09-20/31/32223/
たぶん再放送だったと思うのですが、鳥嶋さんのお話を聞けるというのは珍しいことでは?と思い、淀みなく名言を吐かれる姿に見入り聞き入りました。いや、ほんとにとっても面白かった。
お相手の、リアル脱出ゲームなどのイベントクリエーター加藤隆生さんの話も興味深いものでしたが、全部まとめるとあまりに長くなりますし、今回は鳥嶋和彦語録に絞り、いろんな名作の誕生秘話など、まとめてみました。

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子どもたちって、ブランドで読まない。
いつも本能的に「おもしろい」「おもしろくない」だけで、反響が返ってくる。ここに関しては、ごまかしがきかないんです。

僕も新入社員のとき先輩に、「鳥嶋くんね、ジャンプ今週号の一番新しいの読んで、面白かった順に順位つけてくれる」で、順位つけたんですよ。出てきたアンケートが僕と順位がまったく逆なんですよ。僕が面白いと思ったものが下のほうで、面白くないと思ったものが上のほうにあった。それでね、最初みんなガンとやられるんです。
頭でっかちの新入社員が、いかに子ども視点で漫画を読んでいないか。
徹底して、子どもが何を感じて何を考えていて、何を面白いと思っているのか、
ここをずっと時間をかけて、いろんな経験を重ねながら、頭を打ちつけながら、いかにわかっていくか。この皮膚感覚がどれだけ短時間に的確にやれるかで、編集者の運命が決まってくるんです。

編集者って仕事が3つに分かれていて、一つは漫画をどういうふうに作っていくのかということで、直接打ち合わせをしてディレクションしていくっていうディレクターの仕事ですね。
次は地方から来て部屋を探すとか、漫画家さんの保証人になるとか、連載といったらアシスタントを探すとか、はじまったら食事はどうするのかとか、マネージャーの仕事。
そして無事漫画がヒットしてアニメ化とかっていうことになったら、どういうふうにアニメ化していくのかゲーム化していくのかという、プロデュースの仕事。
この3つの仕事が編集者の仕事。

『Dr.スランプ』について
実はアラレはこの第一回で消えるはずだった。(巻頭カラーでもなく2Cであった)
鳥山さんの構想では。少年マンガなのに、ずっと女の子を描いていくのは嫌だと。僕はネームを読んで、この女の子が非常に魅力あるんで、この子をずっと中心に置いて描き続けてほしいと。ところが彼も頑固なんで、彼と賭けをしましてね、この連載の前に増刊で『ギャル刑事トマト』という女の子を主人公にした漫画を載っけてくれと、そのアンケートの反響がよかったら、僕の言う通りにして、アラレを主人公にすると。アンケート悪かったら、アラレなくしてもいいよと。僕が、当然編集ですから読み通り勝ちまして、アラレが主人公になりました。

僕が有名な、優秀じゃないですよ、有名な編集になった最大の理由はここにある。⇒Dr.マシリト

Dr.マシリトについて
うんと嫌なやつ悪いやつをイメージして、顔をデザインして描いてくれと、彼が原稿を送ってきたら僕の顔になっていたんです。世界征服をたくらむ極悪非道の変態科学者と。
原稿を描きかえてもらうには締め切りが間に合わなくて、その原稿入れるしかなかった。そしたら、この回が人気があって、編集長がもう一回続けてって。

(どんな気持ちだったか聞かれて)
一番ショックだったのは、会社のエレベーターでものすごく綺麗な女性と2人きりになったんですよ。彼女がじっとこっちのほうを見てるから、やっぱりこういうことってあるのかな思っていたら、様子がおかしくて、僕のほうを指差して笑い出したんで、嫌な予感がしたら「マシリト」って言われて、そのときは傷つきましたね。

<鳥山明の絵付きメッセージ紹介
ドクター・マシリト…鳥嶋氏の厳しさは35年前と少しも変わっていません。
ふつう独裁政権はながく続かないはずなのですが…
昔の鳥嶋氏。今とちがうのはヘアースタイルだけ>

『ドラゴンボール』について
鳥山さんが『Dr.スランプ』が始まって、半年ぐらいで辞めたいって言い出したの。ギャグマンガで毎回読み切りですから、直してっていうと部分的に直すことができなくて、まるごと13ページとか15ページを直さなくちゃいけない。それを毎週やっているととても無理だと、ところが彼が辞めたいと言ったときは、アニメもはじまって人気絶頂のときだったんで、編集部はオッケーしてくれるわけはない。
『Dr.スランプ』より面白い漫画を描く、それより面白い作品ができたら辞めてもいいって。約束しちゃったもんはしょうがないんで。
1週間かかって描いてた『Dr.スランプ』を5日で描くようにして、2日をちょっとずつ貯金して、読み切りを描いて、『Dr.スランプ』にかわる人気があるものを見つけようとという作業を1年ちょっとやったんですね。これがまったく反響がないんです。もう箸にも棒にもかかんない。人気絶頂の『Dr.スランプ』の作家が描いても全然駄目なんですよ。
子どもって作家名じゃなくて作品で読むんで。

ふつう漫画家が仕事をするとき、ラジオとか音楽を聴きながらペン入れをする。耳があいてますから。ビデオで映画をかけながら仕事をしている。
ありえない。どういうこと?って聞いたら、ジャッキー・チェンのビデオをずっとかけてて仕事をしてると。セリフの吹替えで見たいシーンがセリフでわかる。そこだけ手をとめて見ると。何回くらい見てるの?と聞いたら、1つの映画を50〜60回見てると。

そんなに好きだったら、1回カンフーの漫画を描いてみない?って、言って、その当時15ページくらいでしたかね、ほんとに短い、それが『ドラゴンボーイ』っていう漫画で、増刊に載っけたらものすごい人気で。

(『ドラゴンボール』はまたたく間に人気がでたのかという問いに)
いや、駄目でしたね。じりじりとアンケート(順位)が落ちてくる。このままいくと終わるなと。
当時人気があったのはジャンプでブッチギリ『北斗の拳』だったんです。トップの漫画を研究して、それをいかに抜けるかという目標設定をしました。『北斗の拳』はブルース・リーを基にしたもので、原さんの絵って一枚絵で、ものすごくカッコいい一枚絵で、コマとコマがパッと、ケンシロウがパンチを入れると、次のコマでガラッと変わる。止め絵で見せてるんですよね。
これに対抗するには、鳥山さんのはジャッキーの映画からはじまってますから、コマの連続展開で見せていこうと。
鳥山さんが発明したのは、奥から手前にくる、手前から奥にいく、ズームイン、ズームアウトですね、このことによってスピードが出るんですね。

初めて読者アンケートでトップをとったのは36話目。

ひとつ、鳥山さんの天才たる所以の回があるんですよ。

(三頭身の主人公が青年の姿で登場する回)

「鳥嶋さんね、このままではドラゴンボールは終わるしかない」
ふだんちいちゃい悟空を大きくして、戦闘のときにそれをやってると。筋肉をちゃんと描かないと戦闘のビジュアルとして、自分の満足のいく画面にならないと。「だから悟空を大きくしたいんだ」と。

僕はそれは大反対で、なぜかっていうと、少年漫画の鉄則はキャラクターをいかに売り込むかだから、うまくいかなかった悟空を売り込んでアイドルにした、それを捨てなきゃいけないんです。
僕はものすごい不安で

子どもって登下校がだいたい3時なんで、3時になるとピタッとクレームや問い合わせの電話が鳴り始めるんです。
この日心配して座っていたのに、まったく子どもからの電話がなくて。

だからそういう意味でいうと、一回人気が出たからといって、そのまま放っておくと落ちていく。常に工夫しながら新しいものを入れていかないと続かないですよね。

<鳥嶋さんのこんなところがすごいというのはどんなところですか?という問いに対しての鳥山明からのメッセージ
まったく衰えもせずに、新しいものが好きなところです。やったことのないジャンルには貪欲で、面白そうだと直感すれば行動力とまとめあげる力はすごい人です。そのたびに僕はよく巻き込まれます。例えば、連載で忙しいときに、ドラゴンクエストというテレビゲームの仕事を持ってきたのも鳥嶋さんです。>


<ゲームデザイナー堀井雄二談
「ドラゴンクエスト」を立ち上げるとき鳥山さんを紹介してくれたんですね。ゲームつくるよと言ったときに、鳥嶋さんは「鳥山くんが作りたがってる」と言ったんですよ。じゃあ描いてもらおうと。あとで鳥山さんい聞いたら、「いや僕そんなこと言ってません」
鳥嶋さんが作家に刺激を与えようとして「ゲームの仕事やってみようよ」ということだったと思うんですよ。そのつながりが「ドラゴンクエスト」が誕生したきっかけになったわけですから、彼の直感があったんでしょうね。>

(ジャンプ特集記事 ファミコン史上最強のゲームが登場!!
その後ゲーム情報誌を創刊。マンガ、ゲーム、アニメなどのメディアミックスにいち早く取り組んだ。ところが43歳のとき、古巣の少年漫画雑誌の編集長として呼び戻される。)

僕が戻って数ヶ月、朝日新聞の夕刊の一面ですよ。
24年間首位だった王者「ジャンプ」失速の見出し 1997年7月28日
「ジャンプがマガジンに抜かれた」
悔しくて(とってある)

編集部員集めて言ったのは、「マガジン」はライバル誌じゃないと。マガジンは見なくていい。「ジャンプ」のライバルは「少年ジャンプ」だけだ。ジャンプがダメなのは新人の新連載がないからだ。どういうことかというと、同じ作家が違う連載を描いていくと、タイトルが変わっていても中身が変わらないわけですね。子どもにそれがバレてたわけです。

前の編集長が立ててた企画があったんですが、面白くなかったんで全部謝ってやめてもらって、それが3ヶ月くらいかかったんですかね。そして編集部員に、「ほら、君たちが作らないと連載ないよ企画がないよ。だから頑張ってね」って
新人の新連載ですから、なかなかくる日もくる日も当たらなくて、部数会議のたびに、鳥嶋くんいつジャンプの部数戻るんですか。うーん、しばらく戻らないと思います。100万部くらい落ちるかもしれませんて

そうこうする中で、希望の光が出てきたのはこの『ONE PIECE』なんですね。これが新人新連載アンケート第1位だったんですよ。
『ONE PIECE』がきてようやく、少年ジャンプを立て直す芽が出てきた。しばらくしてナルトが出てハンターハンターが出て、

スタッフが頑張ったから

よくスタッフに言うんですが、先輩の言うことは聞かなくていい。なぜかっていうと、先輩の言うことを聞くとコピーになっちゃう。編集者はいろんな個性があったほうが、いろんな作家をピックアップできて、雑誌の中にいろんな漫画を並べられる。だからちゃんとした基本は早めに覚えてほしいけど、先輩に合わせないでって。先輩の仕事見るとか、誰かの漫画見せちゃダメ。研究してもいいけどマネちゃダメ。

(今でも新しい作品とか、新しい面白いもの見たときに、これはイケる、パッと掴み取る感覚って、自分にあると思いますか?)

今はないでしょうね。僕は、編集者の才能あるないはたった1つ。からっぽな人がいいんですね。からっぽな人はいろんな才能を入れられる。ドラゴンボールの主題歌にもありますが。
編集者って、パッと才能が来たときに握れるかどうか、手が空じゃないと握れない。自分というのに自負があったりすると、握れないんですよね。パッとわかって掴める反射神経と握力が編集者ですから。これを握って、次の才能とどう繋ぐか。
世の中に最初に面白いものを見つけて、それが大きくなるのを目の当たりにできる、最高にスリリングな仕事だと思います。

(出版社って今後どうなっていくんですか?)

以上でも以下でもないと思います。発展する可能性もないけれど、滅びることもない。それは出版社の心がけ次第。何もないところから、キャラクターを作る、世界観を作る、物語を作るっていうのは、これは才能と手作りしかない。これがじつは出版社なんです。ゼロを1にする、奇跡の作業をやれるのは出版社だけなんです。世界でいろんなメディアでたった1つ、10代の才能を血道を上げて探して育てて億万長者にしている、この閉塞感ある日本の中で、夢があるシステムと職業は漫画家だけなんです。

「漫画家になるにはどうしたらいいんですか?」という質問がくるんです。僕はいつも小学生にわかりやすいように3つあるよって。
1つ「国語を勉強してね」
なぜかっていうと、セリフは全部国語だから。じつは漫画家さんは皆文章はすごく上手いんです。書かせるとみんなすごい。編集者の文章なんて形をとってるだけで味もない。だから国語は大事。
2番目は「友だちたくさん作ってね」
いろんなキャラクターを知っていることが、漫画を描くときにすごく大事だと。こんな人もいる、あんな人もいる、それをちゃんとわかってるかが大事。
3つ目は「運動をして体を丈夫にしといて」
週間連載は本当にキビシイから。寝る間も惜しんで描かなきゃいけない。締め切りがやってくるから。
この3つを心がけてくれれば、君は必ず漫画家になれる。

みんな言うんです「絵はいいんですか?」大丈夫。絵は描けば描くだけうまくなるから。


(加藤さん自身の悩み。会社が日々大きくなっていくのは嬉しいけど、不安も大きくなっていく、背中が重くなっていくんだという話に対して)

つい最近、ちばてつや、ちばてつやを語るっていう
その中でアマチュアとプロの違いについて、ちばさんが語ってるんですよ。アマチュアは原稿を好きに描いているから楽しいと。プロは読者にどう伝えるか、読者の存在があって、それを考えるからじつは苦しい。だからプロとアマチュアの違いは、楽しく仕事ができるか苦しく仕事するか、その違いだっていうね。加藤さんの話を聞いてそれを思い出しました。

楽になるには責任転嫁したほうがいいんですね。自分だけ背負わない。役割分担をするんですよ。僕、言うんですけど、小学校で給食係、掲示係いろんな係があるじゃないですか、会社の役職も一緒で、会社の専務とか部長っていうとまるで能力値の違いみたいに思うから、みんな仕事を間違うんだね。じつは掲示係なんだよ給食係なんだよとなれば、その役職の定義づけしたものをやればいいわけで

(各々の役割を投げる不安について。そして部下を育てるには)

それはね、不安なんですけど見て見ぬふりをする。
ぼくもこれはあるとき言われたんですが、ゲーム会社のヒットゲームの有名なプロデューサーに、鳥嶋さんね、任せたらチェックしちゃダメですよ。本当に才能があって任せようと思うやつは、チェックされたらチェックされることが分かってたら、仕事の手を抜く。鳥嶋さんだってあとからチェックされたら嫌でしょ。
確かに嫌。僕はものすごく1週間くらい考えました。

任せたらチェックしちゃいけない。結果が出たら、出たことに関してコメントするのは構わない。それまでは放っておかなきゃダメ。
いろんなヒントが加藤さんの周りにある。まだご自分でお探しになってないから

(視点を変えてくださいってことですね。)

同じくらい有効な、ごく簡単な有効ななアドバイスが1つあります。黙って加藤さんの話を聞いてくれる人間を1人設定するんです。人間って言葉にしてしゃべるだけで、ずいぶん頭の中が整理されます。じつは相談するってことは、アドバイスなんか求めてない。聞いてもらってるんです。頭の中が整理されて、自分はこんなこと考えてたんだ。あ、こういうこともあるんだって、ずいぶん楽になりますから。たぶん加藤さん自身がリアル脱出しなきゃいけない(笑)。

人を楽しませるっていうのは、永久のペンキ塗りだと思うんですよ。端までいくと、こっちが剥げてるんです。もう一回それをやるしかない。

なぜ漫画が日本だけに花開いたかというと、じつはこれは子どもの文化なんですね。西洋では子どもは大人の未熟な形だから、大人になるまではご飯も一緒に連れてってもらえない。ベビーシッターがいて家にいて、大人だけがレストランに行く。
ところが東洋ってのは、お母さんが背負って一緒にご飯を食べに行く。
『子連れ狼』なんて東洋からしか出てこない発想。親父が斬り合いになるとき、乳母車に乗せていくわけですから、これは東洋の発想なんですね。

子どもは子どもの文化があって、漫画は子どもが選んで見て支持して育ってきた。子どもが育てた文化だから、日本の漫画ってこれだけ底が広くて幅が広くていろんなもんがある。これってね、西洋には出てこない考え方なんですよ。
将来のエンターテインメントのあり方を決めるのは、子どもの意思をどれだけ大人が形にしてあげられるか。

ある作家さんが、自分の部屋の照明も窓も閉じて、全部真っ暗なところに電気スタンドひとつつけて、ネームをやると。すごい産みの苦しみなんですよ。誰に向かって描くんですかっていったら、未来のすっごく暇で、すごくつまらない時間を持て余してる自分に向けて描く。
そうするとようやくネームを描けると。この追い込み方、すごいなって。

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