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2016年03月22日22:39

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楽しいレトロプロブレム(10)解答編

(28)Luigi Ceriani
(Vittorio de Barbieri Memorial Tourney 1943, 1st Prize)
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黒Qの初手は?(9+12)

 まずは取られた駒の確認から。白はQBSPPPPの7枚、黒はSSRPの4枚です。黒の最終手は明らかにQd8-e8+ですね。これが駒取りでなかったとすると白がretro-stalemateになってしまうので、ここでは黒Qが白Qを取ったとして話を進めましょう。

(図1)
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 次の目標は白Kを脱出させることです。それには黒にBf8-g7, Pg7-g6と戻してもらわないといけませんが、このとき黒Bが白駒を取っていることは明らかで、それがSであることもすぐに分かります。

(図2)
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 この状態からSh5-g7 Pg7-g6+と戻すことで、白Kの解放にも成功しました。 次に着目すべきなのは、白Rh8です。これが成駒なのはすぐに分かますね。黒Rh7の方は逆に成駒ではあり得ないので、これと干渉しない為にはg筋の白Pが2度駒取りをしてg8で成る必要があります。
 そうすると、Pがg8で成ってh8に移動してから白Sがg8に入ったことになりますが、勿論その直前にいる場所はf6しかありません。すると、以下のような局面になってしまいます。

(図3)
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 このままだと黒は白Sf6を取らざるを得ません。これを避けるための手段は一つしかありませんが、お分かりですか?つまり、白がSf6とした時点で既に黒Qは存在しなかったのです!即ち、黒Qは原型位置で取られていたことが示されました。 従って、出題図でチェックをかけている黒Qは成駒です。
 では、この成Qはどこで発生したのでしょうか?先程の局面を見ればお分かりのように、白のe-h筋のPのうちg8で成ったもの以外は、もう成ることはできませんから、a筋の黒Pに取られる可能性もありません。よって、黒Pに取られたのはBとRです。ということは、黒Pが成るためにはまずb筋でRを取った後、a2でBを取るしかありませんね。そして白Rに移動してもらい、a1でQに成ったのです。
 という訳で、「黒Qの初手は?」という問いに対する最終的な解答はQa1-a2ということになります。お分かり頂けたでしょうか?
 よく整理された配置に潜む、奥深い論理。レトロの巨人Cerianiの名作でした。


(29)橋本 哲(Probleemblad 2007)
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Proof Game in 13.0 moves(13+15)

 なくなった駒は、白がQPPの3枚で、黒はP1枚のみ。盤面配置を作るには双方とも4手しかかかりません。ここでまず、b筋の黒Pが2枚駒取りをしてd3で取られたと仮定しましょう。すると、黒は手がかなり余りますが、逆に白はPc2-c4で1手、Qd1-f3-f6で2手、そしてg筋の白Pが成ってb筋の黒Pに取られるのに7手かかりますから手数オーバー。よって、b筋の黒Pは成っていることが分かります。
 ではPb3xPc2xQd1=Bと成って、その後このBをd1-c2-d3と捨てたのでしょうか?
しかしそうすると、白はRかSをf6に捨てることになります。でもこれでは、白の手が足りません。従って、黒BのCeriani-Frolkinも不可能であることが分かりました。
 すると残るはPronkinですね。つまり、黒はBc8をd3に捨ててからd1=Bと成り、これをc8に戻したのです!これで黒側の駒取りは尽きていますから、g筋の白Pが成っていることも分かりました。白Pが成る為にはその前にf6に捨駒をする必要があり、それがQであることもほぼ明らか。つまり、黒Pがd1で取った白Qは成駒なのです!

 作意は、1.g4 d6 2.g5 Bf5 3.g6 Bd3 4.exd3 Sf6 5.Qf3 Sh5 6.Qf6 gxf6 7.g7 b5 8.g8=Q b4 9.Qg4 b3 10.Qd1 xc2 11.Se2 xd1=B 12.Sg3 Bg4 13.f3 Bc8となります。
 作者の主張は「Pronkinの為のPronkin」、所謂Hashimoto themeですね。ちなみに、1号局の作者はG.Donatiだったのですが、惜しくも余詰。その後、橋本氏がこの主題で何作も発表した為に、現在ではこの名が定着しているようです。


(30)Michel Caillaud(feenschach 1980)
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#2(12+9)

 作意は1.Ke2+ Kxa2 2.b4#という至って平凡なもの。しかし、何故1.0-0??ではダメなのでしょうか?実はここに、作者Caillaudの真の狙いが隠されています。では、局面を分析していきましょう。
 なくなった駒は白がQSSPの4枚で、黒はQRBSSPPの7枚。白はc8,d3,f3,f8の4ヶ所で駒取りをしており、一方黒はPf5が2枚駒取りをしています。黒Bg8が成駒なのも明らかで、ここでも1枚駒取りがありますね。#2という条件より現在白番ですが、では直前の黒の着手は何だったのでしょう?少し考えてみれば、-1.Kc1xBb1 Bc2-b1+と戻すほかないことがすぐに分かります。これで黒側の駒取りは全て判明しました。

(図1)
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 白Bのうち1枚は明らかに成駒であり、これが生じたのは白桝であるg8なので、白Pはg-h筋で2枚駒取りをしています。また、白Pd3,f3がそれぞれc,e筋のPだったことも分かりました。しかし、よく考えてみると、この図では更に-2.Kb1-c1 Bd1-c2+...と戻すことになり、これを繰り返すだけでは埒があきません。白の駒取りはまだ1枚の猶予があるので、白Bで取りを戻す必要があります。
 例えば以下のような図なら、-2.Sa3-b1 Ph6-h7...と局面をほぐすことができますね。(尚、黒駒の戻し方は一意ではありません。例えばd1で黒Sを取る逆算も可能です)

(図2)
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 さて、ここからが本番です。現在g8にいる成Bが生じたのはb1ですが、この黒Bをb1まで運ぶことは可能でしょうか?g8とb1を結ぶルートは1本しかありませんが、その途中には白Bが挟まっています。分岐のない一本道なので、この白Bと黒Bがすれ違うことは非常に困難です。途中で白桝にあるPを戻せればよいのですが、いずれもillegalとなります。(例えば、Pg6xf5と戻すと、白の方の成Bを戻せなくなってしまいます)黒Bより先に白Bの成を戻せたらそれでも良いのですが、やはり同じ理由でこれもまた難しいのです。では、これらの成を戻すにはどうすればよいのでしょうか?
 この解決法は一つだけしかありません。即ち、Rh1が動いてh1を空けることで、一時的な避難場所を作ることです!よって、白のcastlingは不可能であることが示されました。

 あの世界のHashimotoも絶賛している、Caillaudの代表作の一つ。白Rが不動ではあり得ないことを2枚のBの相互干渉を利用して示すという、独創的な構成が美しいですね。


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