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2016年01月17日15:34

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楽しいレトロプロブレム(01)解答・解説

(01)Tibor Orban(Die Schwalbe 04/1976, Recommandation)
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Proof Game in 4.0 moves (15+15)

 この図は3.0手なら簡単です。(例えば、1.e4 c6 2.Bb5 e6 3.Bxc6 dxc6)しかし、これにあと1.0手加えるとなると、黒は指す手がありません。(白はPをsingle stepにすれば4手にできますが)
 5手詰の詰将棋に3手詰が成立していると余詰ですが、プルーフゲームの場合、指定した手数で出題図を構成することが求められているので、早く到達したからといってそれだけでは余詰(cook)ではありません。このように、与えられた局面に予定された手数より早く到達してしまう場合、白(又は黒)はどこかで無駄に手を消費して時間調整をする必要があります。これを「tempoを失う」と言います。これはProof gameにおける主要なテーマの一つですので、是非御記憶下さい。
 この作品の場合、「黒がPに3手費やし、同時にtempoを失うのは不可能である」という事実に気付かないと、思考が堂々巡りしてしまいます。(レトロを解く上では、こういう論理的な思考が単に手を読む能力より遥かに重要です!)つまり、c6,e6の黒Pはいずれも直進したものであり、d7にいた黒Pではありません。従って、白Bが取ったのは黒Pd7だったことが判明しました。
 では、黒Pd7が2度動いたのでしょうか?いいえ、それも不可能です。何故なら、それだと白Bを取った黒駒が存在しないからです。ということは、黒Pd7は不動のまま取られたことになります。
 以上より、黒の手は「Pの着手2手+別な駒が2手」なのです。白Bが黒Pd7を取るには最短でも3手かかりますし、そうする為には黒は2手目にPc6としてはいけません。ということは…。
 もうお分かりですね。作意は1.e4 e6 2.Bb5 Ke7! 3.Bxd7 c6 4.Be8 Kxe8となります。短手数ながら意外なトリックでしたね。

(02)Julio Sunyer(Chess Amateur 1926)
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双方1手ずつ戻し、それからH#1にせよ(1+1)

 作意順は、Retract:-1.Kg6xRh5 Rh8xQh5 and 1.0-0 Qh7#というものです。castlingがすぐに閃きましたか?
 でも、本当は上の手順が閃いただけでは不十分です。ちゃんと、H#1の局面で黒のcastlingが合法であることを確認しましたか?ここでは黒番ですから、その直前の着手は白の手です。このとき白が何か黒駒を取っているとすれば、黒のKとRがいずれも不動であることを正当化できます。よって黒はcastling可能です。
 ちなみに、castlingは「不可能であることが証明できない限り可能」というのがプロブレムにおける一般則です。対照的にen passantは「可能であることが証明できない限り不可能」となっています。どちらもレトロでは頻出なので、是非御記憶下さい。
 ついでに、逆算時の表記法についても説明しておきましょう。例えば、-1.Kg6xRh5というのは、h5にいる白Kをg6に動かし、h5に黒Rを発生させることを意味します。つまり、あたかも映画のフィルムを逆回しにするように、すべてにおいて通常の手順と逆向きの動きと解釈するのです。
 出題図で白黒の順に戻すのは、「H#1の局面において黒がcastlingせずにRxh5とし、次に白がKxh5としたので出題図になった」と考えれば理解できますね。

(03)Michel Caillaud(The Problemist 1995-1996)
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Proof Game in 6.5 moves (16+15)
b)7.5 moves

 a)では黒の着手はPが1手、Sが4手の計5手。よって、黒の猶予はあと1手だけ。すると白は、Sg1がd7まで出かけて黒Qを取り、g1に戻る(switchback)という順がすぐに目につきます。即ち、a)1.Sf3 d5 2.Se5 Qd7 3.Sxd7 Sc6 4.Se5 Sd4 5.Sf3 Sf5 6.Sg1 Sh4 7.f3が作意です。こちらは素直ですね。では、b)はどうでしょうか?
 b)では、a)と同様の順は成立しません。実際、この図では白Sだけ、あるいは白Sと白Kの両方をいくら動かしてみても、7手消費することはできません。(各自御確認下さい)つまり、tempoを失うことができないのです。
 ここから、次の二つの事実が見て取れます。
A)白Sが動いた後で初形位置に戻ると、必ず偶数手かかる
B)白Kが黒桝のみを踏んで動いた後で初形位置に戻ると、必ず偶数手かかる
 特にA)の方は、より拡張した
Á)Sの移動回数の偶奇性(parity)は、桝目の色のみで判定できる
という形でよく知られています。これはレトロ解析において非常に重要な原理ですので、是非御記憶下さい。
 さて、B)より、白Kがtempoを失うためには一度白桝を踏む必要がありますが、どの白桝を踏んでも最低7手かかってしまいます。従って、b)では白Sは不動で、白Kが黒Qを取りつつtempo moveしている訳です。後は簡単な試行錯誤によって、解を見つけることができる筈ですが…。
 b)の作意は、1.f3 d5 2.Kf2 Qd6 3.Ke3 Qf4 4.Kxf4 Sd7 5.Kg4 Se5 6.Kg3 Sg6 7.Kf2 Sh4 8.Ke1となります。軽作ながらも、黒Sの軌跡の限定の仕方などにはCaillaudのセンスの良さと抜群の創作力が窺えますね。
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