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2018年08月07日22:11

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フリッツ・ラング特集

 シネマヴェーラ渋谷で開催中のフリッツ・ラング特集に通う。
 「西部魂」は41年作品。珍しいラングの西部劇で、前から気になっていた。1861年、西部まで電信を引くウエスタン・ユニオンの旅を描いた作品で、全体の楽天性がこれも珍しい。ウエスタン・ユニオンの任務には一点の曇りもない。先住民も必ずしも悪役でない。リーダーのディーン・ジャガーはケチのつけようもない人格者。その妹と恋仲になる技師ロバート・ヤングも明朗快活。ジョン・キャラダインら脇の人物も、どこかユーモアがあって楽しい。
 その中で1人変わっているのは、道案内のランドルフ・スコット。ファーストシーンは、スコットが保安官らに追われている場面。馬を失ったスコットは、負傷したジャガーから馬を奪おうとするが、結局助ける。「俺も人がいい」と苦笑するスコットは、この時点でヒーロー。
 スコットはいったん姿を消し、旅が始まると偶然一行に加わる。ジャガーは「お前とは初対面」と詮索しない。この関係もいい。
 悪役はバートン・マクレーン率いる南軍ゲリラ部隊で、何度も妨害をしてくる。しかし目当ては金で、もはや志もなく、盗賊の群れと化している。後になってスコットとマクレーンの意外な関係がわかるのだが、悪の誘いを振り切れないキャラクターは、陰りのない人物ばかりの中で、最も面白い。
 最後の決闘は、スコットが多勢の前に正面から乗り込んだり、ケリをつけるのが西部劇のイメージが全くないヤングだったりとすっきりしないのだが、ラングは西部劇でもいい作品を撮った。
 「真人間」は38年作品。前科者を多く雇うハリー・ケーリー社長の百貨店。前科者のジョージ・ラフトは、同僚のシルヴィア・シドニーと恋仲になる。実はシドニーも前科があるのだが、それを言い出せない。これがいつ暴露されるかが興味を持続させる。
 これが最悪のタイミングでばれる。ラフトは悪党時代の仲間であるバートン・マクレーンの誘いに乗ってしまう。
 ただ、ラフトとマクレーンの関係は、「西部魂」のスコットとマクレーンのような緊張感がない。前科者仲間もいい人ばかりだ。彼らが突然歌いだす場面はびっくり。そして百貨店に盗みに入ったラフトらに、シドニーが黒板を使って犯罪がいかに金にならないかを講義する場面は笑いが起きる。ここでこの映画がラングには珍しいコメディと分かる。
 ラングにしては切れがない感じだが、楽しい映画だ。
 「激怒」は36年作品。西部にいる恋人シルヴィア・シドニーのもとへ向かうスペンサー・トレイシー。ところが途中の田舎町で、誘拐犯と間違われ逮捕される。保安官補がうっかり逮捕を漏らしてしまい、それが尾ひれをつけて広まり、町民たちはトレイシーをリンチにかけようと押し寄せる。
 「M」以来ラングが描いてきた集団心理の恐怖で、さすがにうまい。留置所が炎上する場面は迫力。観たばかりの舞台「九月、東京の路上で」と重なるし、正義を振りかざす暴力集団は本当に恐ろしい。
 中盤から意外な展開となる。後半は地方検事と敏腕弁護士がやり合う法廷劇で、アメリカで繰り返し行われるリンチへの言及となる。この部分は、最近でもカトリーナ直後のニューオリンズで、白人自警団が有色人種を殺す事件もあったし、古びていない。これはラングらしい作品で、楽しめた。
 この特集からシネマヴェーラ渋谷は1本立てになってしまい、苦しいのだがまた観に行きたい。
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