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2018年06月28日02:32

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クラナドSS  ー斑藤ー 1



都会から離れた小さな街。
南には住宅街や店舗が点在する中心地が広がっているが北部では深い山々が鎮座する。近年、この街の山を削っての開発計画が進んでいるが、市民からの反対もあり行政の在り方がもっぱら新聞やテレビを賑わせている。
彼らが通う高校も例外ではなかった。彼らが通う高校は小高い丘の中腹にあり、学校へ続く長い坂道の両歩道には桜が植えられ、春には地域の人々の目を楽しませていた。その桜の木が開発を機に引き抜かれると言う話が持ち上がり市民はさらに反対の声をあげる。学校関係者や生徒らも挙って反対している。
この春、新しく就任した生徒会長がその桜を抜かせまいと校内で署名活動を始め、その年の冬には東京の英弁論会で桜維持の主張するそうだ。
彼らの耳にもその話は入っているがあまり興味の無い話だった。
彼らの通う高校は比較的偏差値が高い進学校であり、スポーツ推薦も扱っているため、県外から入学するものも多い。

岡崎朋也。
中学時代バスケットボールの推薦入学を経てこの高校に進学する。しかし、彼の家庭は普通のそれとは違い、父子家庭であった。朋也を産んで間もなく世を去った母親。父親は男でひとつで育ててきた。その代わりに自分の人生を壊してしまった。朋也も無事高校へ進学が決まったとき、酔った父親と大喧嘩をして朋也は肩を強打。病院にもいかず放置していった結果、肩は上がらなくなるほど重傷化していた。その結果、バスケットボールが出来なくなり勉強もついて行けず落ちこぼれた。朋也の父親は息子の夢を潰してしまったことに強い罪悪感が残り実の息子を怖がり実の家族でありながら他人行儀のように君づけで呼ぶようになった。

文字通り彼の家庭は普通のそれとは違っていた。


藤林杏。
地元にすむ女学生で双子の妹がいる。スポーツは割りと得意で運動神経抜群だが、彼女は勉学入学である。
妹とは容姿はまさしく瓜二つであるが、性格が大きく違った。妹の椋は引っ込み思案でまともに話せる相手は少ない。加えて恥ずかしがり屋な面も持ち合わせており、1度何らかでパニックになるともう歯止めが効かなくなるが、この杏なる人物は快活かつ剛胆。相手に分け隔てなく、時に激情を表に出す人間くさい性格だった。
性格以外では髪の長さであろう。妹の椋は肩まで程度しかないが、杏ともなると腰まで長い。ただし現在は髪を訳あって肩までしかなく実に姉妹の区別がつかない。

朋也を巡り対立した姉妹。
現在は和解し、迫る受験へ勉学を重ねている。


 序

下手にスキスキ言い合うカップルより、冗談めいて地を見せ合う方が長続きすると言う。
このカップルはまさにその通りだろう。いや、むしろただのバカップルだろうか。
「へー。また順位あげたじゃん!」
教室の一角で声をあげるは藤林杏。朋也の彼女である。一連の騒ぎのあと、朋也は勉学に励みだした。いままで勉学など見向きもしなかったのにいったいどんな心境があったのだろうか。
一学期の期末テスト。朋也はいままでとはうって変わりテストの順位を上げていた。スポーツ推薦で入っていたとは言え、勉強は嫌いではなかった。めんどくさいだけだった。あまりの延びに担任の乾はカンニングを疑ったが紛れもない実力だった。
同じ落ちこぼれ同士として仲が良かった春原陽平も朋也に触発されて勉強に励み、最低というレッテルは剥がれつつある。
「いやー勉強って楽しいんだね」
カラカラと笑う春原。
彼もサッカーのスポーツ推薦で入学し、その実力は本物と言われ始めた頃暴力沙汰を起こし退部させられた。原因は違えど状況は朋也と同じ。だからか不思議と馬があった。
「調子に乗んじゃないわよ。学年順位が89位が86位上がっただけなんだから」
ちなみに朋也は85位から67位である。春原より下の生徒はテスト免除の者や理由あってテストが受けられなかったものなので実質は春原が最下位である。朋也より下の者は朋也たちと同様スポーツ推薦組のため特に問題視されていない。

「しかし、あの岡崎が受験なんてね。どういう風の吹きまわしかな」
「めんどくさいだけで勉学自体は嫌いじゃない」
「ふーん。まぁ僕もそんな感じなんだけどね。最も大きな原因は杏なんじゃない?」
「それもあるだろうな。だけど、まぁ、なんだ?このまま腐るのも面白くはないなと思ってな」
「でもさ、岡崎の家ってワケアリだったよな。こういうのもあれだけど学費とかどうするんだ?」
「うちの親父は俺の夢を奪ったと言うことで俺に対して他人行儀だ。俺が新しい大学への夢ということになれば目を覚ますと思うんだ。ムカつくけどな」
「そんなもんかなぁ」
「最悪奨学金もあるし」
「奨学金。近頃返済が問題になってるじゃないか。大丈夫か?」
「なるようになるさ」
「んで?どこの大学行くんだ?」
「そうだなぁ」
朋也はしばらく黙る。いまの実力と大学のレベルから察するに恐らくは底辺校だろう。しかし、勉強をして成績を上げなければ口にしたところで叶うもんではない。

「いまのままじゃ多分どこにも入れないから、この大学だと言うものはないな」
「ふーん。僕は地元の商業大学を狙うつもりさ」
「商業?」
「商業って、この学校に商業科はないけどどう勉強すんの?」
杏の言葉に春原は
「この学校に商業に詳しい先生がいるから習ってるんだ。マンツーマンでね」
「校内一の馬鹿が商業習いたいなんて来たらその先生はさぞこの世の終わりのような顔をしただろうな」
その言葉に春原は苦笑する。どうやら事実のようだ。授業にも出ることなく日がな一日寮の自室で自堕落することがある春原がまさか商業を習いたいとは誰が思うだろうか。
朋也を取り巻く人々が大きく動き出した。


受験が迫る高校三年生の夏は遊ぶ時間など全く無い。ましてや塾など行ってない朋也は皆より相当遅れていることは明らかである。
本屋や図書館に行って参考書を漁り時には難度の高い赤本まで買って勉強を進めている。夏休みでも学校は開いているため足しげく通ったりもした。特別進学クラスでは特別講習も開いていたりしたのでそこにも顔を出すようになった。
朋也の出席に進学クラスの生徒は目を丸くしたが、話をしてみれば気のイイ奴らで朋也も居心地のよさを感じている。

「うーす」
「おーす。岡崎。今日も来たのか?」
「ああ。Fランでも大学は行きたくてな」
「Fランって。ここのクラスは国立コースだぞ?」
「良いんだよ。いまはいち早くでも身につけたいんだよ」

などと他愛の無い話と共に朋也は勉学に励む。
そんな中教師が朋也に回答を求める。

「んじゃあ、ここの回答を…………岡崎。わかるか?」
「ん?んー。副交感神経?」
「正解だ。副交感神経は交感神経の対となる存在でな………」

めきめきと上達する岡崎と春原。杏も塾へ通い、すべてが順調に見えた。

あの紫がはっきりしていたとき。

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