mixiユーザー(id:846839)

2018年09月01日01:48

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次世代MSXの話

先日西和彦氏が年内発表を目論んで「次世代MSX」について発言したのが、静かに話題になってるようで…。西氏の言うには、

・ザイリンクスのFPGAで構成、CPUはARMとR800
・Raspberry Piと同じ大きさ
・AC48V電源
・64枚までスタックしてマルチプロセッサ運用可
・USB3.0、PD対応
・100ピンバスコネクタ
・Win10、Linux、MSX OS
・CコンパイラとBASICの提供を調整中

とかなんとか。IoTデバイスとして使えることを狙ってるようで、さらには来年秋の発表を目指して通信機能とMSXをワンチップ化したものを開発していると…。

ただねぇ、こういうのはどうしても冷ややかに見てしまうんですよね。
それは、結論から言えば「なぜMSXなのか」を語っていないから。それ、MSXである必要、ありますか?

というか、本当にそれ作ってるんですか?結局出ないか、出てもお茶を濁したふうになりませんか?…という疑念さえ抱いてしまいます。

2000年に開催された第2回の「MSX電遊ランド」にて、西氏は公式エミュレータとワンチップMSXという構想を披露しました。公式エミュレータは英国Tao systemsのintentという技術を用いてクロスプラットフォーム展開するとされていたのですが、実際にリリースされたのはWindows版だけで、それはintentを使ったものではありませんでした。パフォーマンスの問題で仕方なかったのでしょうが…。

さらにワンチップMSXは半導体製品としてリリースされることはなく、レトロPCの再現に特化したFPGAボードの名称として6年も経ってからようやく世に出ました。一応弁護しておくと、ワンチップMSXというのはあくまで構想であって、FPGAボードを作った似非職人工房の方や関係者であるところのMSXマルエーの方の話としては「単に名前をもらってきただけで西氏のワンチップMSXとは別物」ということではあるんですがね。

西氏の公式サイトには自身の業績としていろいろなものが挙げられているのですが、そこにワンチップMSXの写真を掲げて「100ドルPC」の開発を行ったとありまして。
私はそれを見て
・ワンチップMSX=100ドルPCなん?実際に配布されたものとは違うし、100ドルPCとして開発してたなんて話聞いたことないけど?
・FPGAを開発したって、それ似非職人工房の実績やんね?
てなことをツイートしたのですが、なんと西氏が「何も知らないくせに」とかリプライしてきまして…。

確かに西氏はMITラボ時代、100ドルPCを示唆する論文を書いており、その発表には後にプロジェクトを率いるニコラス・ネグロポンテ氏も聴講していたらしいのですけど、後はどう探しても西氏と100ドルPCの接点がないんですよね。その論文を古川亨氏がセガ・大川会長に見せたことでネグロポンテ氏への資金提供が行われたという貢献があるにはありますが、ネグロポンテ氏自身は「それ以前から構想はあった」として西氏の論文の影響を否定、もちろん西氏はネグロポンテ氏のプロジェクトに加わることなくMITを離れています。

タイミング的には西氏が100ドルPCと縁がなくなってからワンチップMSXの話が出てきてるわけで、確かにMSX電遊ランドにてワンチップMSXにより約1万円でパソコンが作れると言っていますが、その時のワンチップMSXはFPGAではなく純粋なシステムオンチップLSIなんですよね。業績に書かれたワンチップMSXとは違いますし、経歴にある「(西氏の)考えていたアーキテクチュアはFPGAを用いたもので」というのは、そう機能するものであったとしてもまだ当時はFPGAというものがPCのロジックまるごと収容できるものではなかったのです。

そして何より、ワンチップMSXとして後に世に出たFPGAボードは、似非職人工房がずっと前からトライしてきた「似非PLD」の集大成であって、そこに西氏の関与はありません。ライセンサーの総元締めであった、ということだけですね。アイデアも、設計も、全部西氏のものではない。ネグロポンテ氏に誘われず「オレのやり方のほうが優れてたんだ」ということを証明したくてFPGAボードによるワンチップMSXを公式プロジェクトとして認めたんですか?中身は全部丸投げで?

なお100ドルPCプロジェクトの方も、現地の教師に抵抗されて配布できないところがあったり(PCによって得られる知識が多いので教師の威厳が保てなくなるから)、単にPCを配るだけでは活用されなくなったりするのでもっと根本から支援するように変えようという人たちがとにかく配ろうという人たちと対立して離脱したりなど、必ずしも順調とは言えないようですが…。

結局調べても西氏が100ドルPCについて積極的に関わったのは最初の論文だけで、他には何もありませんでした。そんな西氏が「何も知らないくせに」とか堂々と言えてしまう、まぁさすがに実績詐称とまでは言いませんが、何が信じられるというのでしょうか。ましてや単にプロダクトが世に出てくるのを待つだけの一般の人からすれば。

そしてもっと根本のこと、「なぜMSXなのか」ということですよ。そこに答えがなければ、ビジネスとして成立しないでしょう。

以前FPGAボードを使って「次世代X680x0」の構想をぶち上げた人がいましてね。
我々どうしても1980年代に少年だったその時の気持ちが残っていて、新しいハードウェアを見ると「これでどんなソフトが現れるのだろう」とかつい期待しちゃうのですけど、ところでそのソフトは誰が書くの?というところが全くなおざりにされてたりするわけですよ。

そして、それだけの労力を払って作ったプログラムは、そのハードでしか動かないわけですが、それだけの甲斐がある・価値があるプログラムなんでしょうか。別に他のプラットフォームでも良くないですか?
新しいハードなのだから過去の資産とか関係ないんですよ。だったらそのアーキテクチャを引き継ぐ必要ありましたか?なんかちぐはぐじゃありません?過去の資産を使いたいだけならエミュレータでいいし、新しいことをしたいなら今時のPCを使えばはるかにすごいことができますよね。

次世代MSXもそうです。例えば今家電のあちこちにコントローラとしてMSXが生きているならば、それを取り込んだ新アーキテクチャというものの存在価値は低くないでしょう。でも実際にそんなことはなく、世界的に見れば多い方とは言え、一部の好事家が昔のゲームで遊んでみたりちょっと工作したりしているだけです。

さらには、現代のコンピュータシステムというのは、ソフトを前提としたハードを提供するというのが当たり前になってきています。どんなサービスを作りたいか、そのためのソフトはどうするか、それらを動かすハードはどうするか…という順になるので、動きさえすればどんなハードでも構わないわけです。しかし次世代MSXでも最初にハードの話が出てきて、ソフトの話はあっさりで、やっぱりハードウェアアーキテクチャありきのプロジェクトであると感じます。流行りのI/Fがついていればいいってわけではないんです。そのI/Fを手軽に使える仕組みをあらかじめ用意しておかないといけないんです。

その整理ができていないと、結局ソフトが作りにくいコンピュータということになって、短命に終わります。当然ビジネスになりません。もっと明確に使用目的を提示した方がいいでしょう。「なんでもできる」は「なんにもできない」なのです。案外と得手・不得手があったりするものですが、宣伝文句として万能性を謳ってしまうのは、実は具体的な使用例がひとつもなくて不得手部分を把握してない現れなのかもしれないのです。

昔は自分も、8ビットPCのアーキテクチャが生きている、新システムを夢想したりしたものです。まだあの時は、16ビット〜32ビットに移行したばっかりで、大きくなりつつあったシステムの隙間を狙える8ビットシステムなんてのも悪くなさそうでしたし、移行した32ビットシステムも8ビット時代のアーキテクチャを色濃く残してたりしましたから、古い8ビットシステムは単にスケールダウンしただけみたいにも見えたわけですよ。だったら高級システムのサブセットだとしても利用する価値があるんじゃない?と。

でもそんな時代もとっくに過ぎ去りました。思えばハード偏重だった時代は、ずっとコンピュータそのものの試行錯誤が続けられていたということだったのでしょう。今はソフトの要求にハードが応える時代になりました。FPGAを使うというのは良いアプローチでしょうが、ならなおのことMSXが余計です。ビジネスを成立させたいのなら、MSXを忘れませんか?MSXに対する思い入れが特にはない私は、そんなことを思うのです。
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