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2018年05月17日22:49

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5月17日

火事場の馬鹿力という言葉がある。調べてみると、切迫した状況に置かれると普段には想像できないような力を無意識に出すことのたとえ、とあった。火事場から主婦がタンスをかついで出てきたという話もそこで持ち出されている。
でもぼくは、この言葉が本当に伝えたいことは別にあると思っている。もちろん尋常でないパワーを発揮することも実際にはあるのだろう。でもそればかりが目立ってしまうゆえに、主婦がタンスを持とうとしている時の著しく低下した知能については、あまり取り上げられることがない。早く逃げなければならない状況で腕をまくってタンスに挑んでいく姿は、もはや馬鹿というか、ある種の怖さすらおぼえてしまう。ともあれ「馬鹿力」とあるかぎり、そこにはあたまが悪くなるという意味合いも間違いなく含んでおり、それがとても重要な肝になっているとぼくは思う。
高校生のころ、ぼくがテレビを見ているとキッチンから母親の悲鳴がきこえた。なにかと思って駆けつけると、母親の着ているウールのセーターが、ぱちぱちと赤く燃えていた。どうやら調理中にガスコンロの火が燃え移ったらしかった。母親が火につつまれている。それはこころが裂けるような衝撃的な光景だった。ぼくは、早く助けなくちゃ!とすぐさま行動にうつった。でもその時にはすでに、理性のレールを脱してあらぬ方角へと進んでいたらしい。ぼくは気が付くと、叫びながら母親に渾身のローキックを3発ほど打ち込んでいた。小さなモーションから、ひとつひとつを着実に膝下へ当てた。母親は燃えながら、くの字に折れ曲がって倒れた。結果的に事故にはいたらなかったけれど、今振り返ればほんとうに申し訳ないことをしたと思う。
このように、パニックにおちいると直面する出来事にまったく関連のない行動をとったりすることがある。つまり火事場の馬鹿力とは、火事場でものすごく馬鹿になってしまうことのたとえ、というのがぼくの解釈だ。
しかしながら近頃は、また別の考え方もあるように思えてきた。朝、きまって自宅の前にタバコの吸い殻が捨て去られている。銘柄はジョン・プレイヤー・スペシャル。なかなかシブい嗜好の持ち主だ。すごく律儀な性格をしているらしく、タバコを捨てる場所がいつも決まって同じだ。まるでルーティンに組み込まれているみたいな精度がそこにある。でも、片付けなければならないぼくたちにとれば、やっぱり憤りを感じてならない。そういったいい加減な人が、いつか誤って火事を引き起こすのだろうなと思う。ぼくは、火事場の馬鹿力の中に、「もともと馬鹿な人が火事を起こした」、という背景があるのではないかという気がする。そしてあのタンスを持ち上げた主婦も、もともと馬鹿な人で、よくタバコを投げ捨てていたのではないかと想像する。


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