名作は恥ずかしい

昔三島由紀夫が太宰治のファンの集まりに来て、わざわざ「俺はあんたが嫌いだ」と宣言して帰ったと聞いたことがある。
彼は太宰の「人間失格」について、「作者はただの病気だ、文学は病人が病気を露呈して見せる場ではない」と罵ったという。
その、読者をどうしようもなく恥ずかしい気分にさせる病気っぷりを見事に描いてみせているのが伊藤潤二のコミック版「人間失格」。ビッグコミックオリジナル連載中。看護師のナナちゃんとか昭和天皇物語とか深夜食堂とか、好きな作品が多いんで結構読んでる。
これも間違いなく名作だと思う。文字からコミックに変換させてみても、その恥の色あいは見事に変わることがない。ちなみに今まで私が読んで一番「は、恥ずかしい」という、もう身の置き所のないようないたたまれない気持ちにさせられたブンガクは三島由紀夫の「仮面の告白」。ここには「作者はただの病気だ」などとは言ってのけられない天才変態の筆致と矜持があるのでなおさらです。
伊藤先生、そのうちこちらもぜひ是非。