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2017年10月21日20:19

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本 ”ゴージャスなナポリタン” 丸山浮草

”ゴージャスなナポリタン”  丸山浮草

‘15年、第二回”暮らしの小説大賞”受賞作。
同世代の作者(’66生まれ。新潟の広告会社勤務後フリーに)の初受賞作、
四十代独身男性が主人公ということで気になっていた本を、
やっと図書館で借りました。
ちなみに作者の受賞第二作”物語はいつも僕たちの隣に。”(2/12日記)の方を
先に買って読んでます。 


40歳を越えてなお独身、親と同居のひとりっ子、
ともふささんは日本海を臨むとある町のしがないデザイン会社の文案担当。
仕事はなかなかできるのだが、私生活は雑多な本の山に埋もれた部屋の、
湿った万年床の上でうだうだ過ごす自堕落ぶりだ。
貧乏から脱出しようという気概はなく、結婚生活にも挑めず、
問題を先送りする日々を送っていたが、変化は突然、やって来た。
大企業からのヘッドハンティング話、恋人の妊娠、父親の事故……。
生意気な部下と腐れ縁の大男、生者と死者、焼きそばパンとナポリタン……
などなどが入り乱れながら繰り広げられる
「俺の暮らしはどうなるのだろう(不惑超えてんのに)」小説。
風変わりな文体、クセになる読後感……選考会をざわつかせた平成のポップノベル、
堂々登場です!
(出版社:産業編集センターコメント)


物語はアラフォー中年男のうだつのあがらん日々。
年老いた両親とのほどほどに仲良い実家暮らし、
残業続きで遅く帰れば母の手料理が待つ。
自分にあてがわれている二階の二部屋はまるで”グランドキャニオン”のように
積み上がった趣味の漫画や本で囲まれ、
何度母から注意されても断捨離する決心がつかない。
仕事もコピーライターとはいうものの地方(新潟市)の広告会社では”告知ライター”、
ほぼ大手の下請けのなんでも屋、それなりに頑張っているものの、
安月給のこのままでは恋人はるかさんとの結婚は経済的には無理。
その前に、三年も付き合っているのに部屋が酷すぎて、
実家に招待することもできない。
そんな日々の仕事に流され、お金のことや(いや、例えお金があったとしても)
今の気ままな生活を変えることへの躊躇で新しい暮らしへ踏み切れない。
堂々巡りの自己嫌悪ではるかさんへの思いにも自信がなくなっている主人公。
はるかさんは結果はどうなろうと何かが変わり、新しく始まるのを待っているのに。

私の四十代はこの主人公と違い、仕事は充実し経済的にもほどほど、
一人暮らしで独立はしてたけど、結婚を考えるほどの人はおらずで、
何かを大きく変えるきっかけもない状況でした。
けど、サラリーマンという人と同じ人生で一生を終えていいのかと常に自問する、
主人公ほどではないけど本やCDに囲まれ、映画やライブ通いがやめられない
サブカルこじらせ中年でした。
だから、主人公には共感できたので最後まで面白く読めました。

結果的には大きな事件は起こらず(あらすじにある転職・妊娠・事故はあるも)、
親子のどこかほのぼのとする会話(お母さんが作るなんでもない家庭料理の
がとても美味しそう)、生意気な部下のゆかりさんの厳しいツッコミ、
偶然見かけたともふささんを観察する向いのビルに勤める妄想癖のあるOLさゆりさん、
学生時代からの友人でともふささんの仕事場に入り浸る報道記者・小清水の厚かましさ、
そんな人々とのどこにでもある日常のやりとりで物語が進むのが心地よいです。

賞の選考会やアマゾン等の書評でも言及された、
癖のある、エッセイのような主人公の改行が少ない独白、
ユーモアとサブカル臭の強い、賞の総評曰く”80年代のポップな文体”
(高橋源一郎、椎名誠あたり?)は好き嫌いがはっきりするところでしょうが、
私には世代が同じなのもありツボだったので、ハマってしまいました。

さゆりさんの誰もが死人に見えるという、突拍子もなく、かつ、しつこいまでの描写
(第二作にも同じように妄想が爆発する場面がアクセントになっていた)、
独立したともふささんが苦労してコピーを生み出すまでの過程、
小清水さんの神戸の震災でのその後のトラウマ(相撲嫌いに)となった取材話
といった展開もあり、最後にタイトルのゴージャスなナポリタン作りとなります。
これがお金はそんなにかかってないけど、作る過程や食べている様子が
とても楽しく、美味しそうでまさしくゴージャスなひと時に思えてきます。
そして、ともふささんのこれからの新しい生活を、ほんの少し匂わすだけの
終わり方がまたよろし!

はるかさんからのメールの、
”恋愛は依存しあったり、救い救われるのではなく、
愛するののいい状態はその人の隣に並んで、
あくまで自分の足で共に歩いていくことを心の底から楽しい思える状態”。
これは、まさしく自分の恋愛観と一緒で、なかなか響きました。
男も女も恋愛においては、50-50、ってこと、
どちらかの思いや行動が半分を超えると、いつか無理が生じる。
それぞれの相手への気持ちと自立心が半分ずつのまま大きくなり、
それをお互いに実感しあえるのが理想。
まあ、そんな理想を追い続けたから独身です。
けど、理想を言ってるのを自覚してたので後悔はしてません。

タイトルも文体も軽く、ドラマチックな話ではないけど、
読み終えると予想以上に面白く、 
ドラマッチクでない日々の中に新しい変化へのきっかけや美味しい幸せがある、
人それぞれの”ゴージャスなナポリタン”がある、と感じました。
さすが”暮らしの小説大賞”作。
なんでもないナポリタンが食べたくなります。
ちなみに賞の選者の一人はあのフードコーディネーターの飯島奈美さんです。

最後の二行
”最終回にはまだ早い。
新しい一日が、また始まる”
ほんまにね。
ということで、五十代を迎えるにあたり、
私もともふささんと同じように新しい”暮らし”に踏み出しました。(もう三年です)
現在、来月末の第五回”暮らしの小説大賞”の締め切りに向かって、
八月末に書き終えた380枚の第二作を頑張って推敲中です。
どこに原稿を応募しようかなと思っている時にこの本を読んで、
賞の締め切りを知って、応募することに。
いいタイミングで読んでよかったです。

と言っても、身の程を知っているのであくまで趣味です。
参加すること、完成させること、
それによって自分にとってささやかなゴージャスを感じることに
意義があると思ってます。

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