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2017年07月18日06:09

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『しあわせな人生の選択』

 末期の肺がんで闘病することを止めた親友のために、出来ることは何だろうか。

 向田邦子の『あ・うん』は本来もっと長く描かれていく筈だった。向田の急逝により第2部にて完となってしまったが。描かれざる続編で、戦時中から戦後、あの2つの家族はいかに生きていったのだろうか。親友である2人の男はいかに年を重ねていったのだろうか。そして、どちらかがどちらかの最期をいかに見送ったのだろうか。

 親や配偶者ではなく友を見送る、看取る物語、って意外と少ないように思う。かつて関西テレビ(フジテレビ系列)が毎年単発の秀作ドラマ(演出は林宏樹)を放送していた時期に、『去っていく男』(作・山田信夫、向田邦子賞受賞作)という印象的なドラマがあった。検事の鹿賀丈史と医者の津川雅彦とが親友で、バリバリ働いていた鹿賀が末期がんを宣告されて…という話。



 スペイン、マドリッド。かつてルームメイトだった舞台俳優とその親友。女たらしで自由人で役者仲間の妻を寝取ったこともある金のない、家族は老犬トルーマン(=原題)だけという俳優と、比較的常識人であり妻子があり経済的にも成功した親友。妻に促され、肺がんで余命いくばくもないという俳優に会うためにスペインにやってきた親友…。たった4日間の物語。

 俳優の息子の留学先であるアムステルダム、親友の住まいはカナダ。俳優とその従妹はアルゼンチン出身。愛犬の譲渡先候補として出てくるのは女性同士の夫婦で、そこは幼い養子を迎えている。頑なに延命治療を断った俳優に、親友は見返りのない友情(と金銭)を惜しみなく捧げる。別れた妻も息子も、そしてかつての友人たちも概ね優しい。多様な人々の、哀しみや怒り、寂しさを包み込む大人の優しさ。そう、ここには大人たちの物語がある。親友と俳優の従妹とが衝動的に身体を求め合い、大切な人を失うことに号泣する。それも大人ゆえ。



 今この国で大人の物語が描けないのは、(介護モノ以外の)大人の映画が作れないのは、要はこの国に大人の文化が無くなってしまっているからではなかろうか。そもそも「我々」はちゃんとした大人なのだろうか。向田邦子があの時台湾の空に消えることなく作家として生きながらえていれば、多少は局面は変わっていただろうか、と、そのようなことを思いながらこの作品のことを思い返す。

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