mixiユーザー(id:3661937)

2017年07月17日20:29

441 view

マスターができるまで 久々 1380

服を着たカワタカはさっさと自分だけ、荷物を小脇に持つと、更衣室をあとにして行った。
サトシやミツヒロは申し訳程度に
『これからみんなでかっさんの店でソフト食うて行くんじゃけんどおめぇも行かんか?』
と誘ったが
『わり!
俺は忙しい』
とだけ返事をするとカワタカはあとも見ず出て行った。
『何が忙しいんなぁ、あいつ、へのっとるのう、、』
サトシが悪態をつくとミツヒロが
『女じゃねんか、、』
と意味深な小声を出し、
『あいつ、このまえ、レモンの店で女とイチャイチャしとった』
と言った。
ミツヒロの家はレモンの看板の喫茶店からほど近いところにあったので、それは信憑性のあるはなしだった。
だから俺はわけもなく胸がさわぎだし
『ほんま?
アンタ、ええかげんな事言われなよ』
と言ってしまった。
すると、ミツヒロをはじめ、サトシやヒデキなど、そこにいた全員がにやにや笑いをはじめ
『ええかげんな事いわれなよ
ほんまの事も言われなよ
都合の悪い事はもっと言われなよ』
と俺の口マネをし
『ボロさんはカワタカが意中の人じゃけんの。
焼きが餅餅じゃの』
と言った。
俺はカッとなり
『なんが意中の人で。
小難しい言葉を出しゃええ言うモンじゃねぇよ
焼きが餅餅じゃて何弁でぃ!』
と喰ってかかって行った。
サトシやミツヒロは俺がカッとなるとどうなるか熟知していたので
『わ!』
と蜘蛛の子を散らすようになり
『ボロさんが怒った!
ボロさんがヒスをおこした!』
と囃しつつさって行った。
俺は去って行く影に向かって
『今度そがん事いうたら家までおらびに(怒鳴る)行くけんな。
行く言うたらホンマに行くけんな』
と叫んだ。
大きな声を出したせいか、俺は
『はぁはぁ』
と肩で息をした。
夏休みも後半戦にさしかかっており、暑さまっさかりの真昼であった。
校庭では低学年の子がボール遊びをしており、ウサギ小屋では4年生の当番のモノがエサを運んだり水をかえたりしていた。
昨年、それは、俺とシゲイチが担当した仕事だった。
そういえばシゲイチは夏風邪をひいているとかで、水泳の練習をここのところずっと休んでいた。
明日はプールの練習が休みだったのでお見舞いにでも行ってやろうかと思った。
シゲイチのお見舞いの事から手みやげのケーキの事に連想が走り、ソフトクリームの事へと、それは繋がっていった。
さんざん泳がされて疲れていた俺もかっさんの店でソフトクリームが食べたかった。
しかしまたサトシ達に会って、からかわれるのはシャクだった。
仕方なく、プール脇の水道の水を飲んで帰る事にした。
水飲み場の水道は、蛇口を下にむけていくつもならんでいた。
口は、ひねると180度まわり上に向く仕組みになっていた。
俺はその一つを選び、大きく栓をまわした。
するとひねりすぎたのか、ものすごい勢いで水が走り出て来、俺の顔と言わず、服と言わずをぬらした。
俺は
『きゃ!』
と女の子のような声を出し、あわてて、誰かが聞いていなかったか、周囲を伺った。
誰もおらず、安心した。
最初こそ生温かったが次第にひんやりとした水になって行った。
俺はノドをならして水をのんだ。
こぼれた滴が襟元をぬらした。
そんな事も気にならないほどに、のんでものんで、ノドの乾きは癒えなかった。
誰がか校庭でボールを蹴ったのか
『わぁ』
という喚声が背後であがった。
その声を覆いつくすように校庭の樹木からは蝉時雨が降り注いでいた。
飲んで、飲んで、ようやく乾きが癒えかけた俺は蛇口を元の位置になおし、栓を止めた。
ゆるくなっているのか止めてもしばらく滴がしたたり、俺の靴をぬらした。
真上で俺達をじらしている太陽のせいか、校庭の向こうには陽炎が立っているように見え、周囲はゆらゆらとかすんで揺れていた。
俺は口元を手の甲でぬぐい
『はぁ』
と息をはいた。
額の生え際からはタマのような汗がいくつも浮かんできていた。
あれだけ飲んだのに、水はすぐ様、汗となって出て行ってしまっているようだった。
その時、更衣室の影から誰かがあらわれ
『ボロさん!』
と俺を呼んだ。
不意だったので、俺は体が固くなった。
光の中、それは黒い影に見えた。
やがて目がなれてきた俺は
『あんた
どしたん?』
と言った。
陽炎がたつ炎天下の下で、俺のあだ名を呼んだのは、まっ先に帰ったはずのカワタカだったからだ。
2 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する