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2017年02月18日07:19

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追悼・佐藤さとるさん/小さな国の彼方へ

■児童文学作家の佐藤さとるさん死去=「コロボックル物語」
(時事通信社 - 02月17日 13:01)
http://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=4&from=diary&id=4437203

 私らはアニメ『冒険コロボックル』から原作の『コロボックル物語』シリーズに入った世代で、テレビアニメの各話30分のぶつ切りで、内容も子供向けに薄められた単純な作品とは異なった、大人向けと言ってもいい深い世界観にすっかり魅せられてしまった。
 それがシリーズ第一作の『だれも知らない小さな国』だった。

 幼いころに、豆粒ほどの小さな人=「小法師さま」を目撃した主人公は、大人になっても、小人の存在を信じる、周囲からはちょっと浮世離れした存在のように思われていた。小法師さまが、北海道の伝説に残る、蕗の下の小人=コロボックルではないかと考え、電気技師の仕事の合間に、各地の伝承を調べるなどの研究を続けていた。
 自分からは決して姿を目にすることはない、コロボックルたち――けれども、主人公は、時折り、目の端をさっと過る、小さな影のようなものを見かけるようになった。もしかしたら――主人公は、あるアプローチを試みる。そして、主人公の前に現れたのは――。

 小人も妖精もドラゴンも当たり前のように存在する、凡百のメルヘン、ファンタジーとは、趣がまるで違っていた。主人公の「せいたかさん」は、現代の言い方なら、コミュ障ということになるのだろう。そこに共感を覚えた面もあるが、物語は更にある社会問題を孕んで、意外な展開を見せることになる。そしてようやく現れた、せいたかさんの理解者――「おちび先生」と呼ばれる、幼稚園の先生、彼女にもある秘密があった――。

 読書をして、興奮する経験というのは滅多にない。けれども、思春期に差し掛かったばかりの、小学校六年生の自分には、この『コロボックル物語』はとんでもなく大人向けの、世界の広がりと深さを感じさせてくれる物語のように感じられていた。
 どれだけハマったかというと、主人公と同じように、コロボックルにアプローチを図ろうとしたほどである(笑)。「おちび先生」は、私の中で、理想のヒロインの一人となった。こんなベターハーフに出逢いたいなんて思っちゃったものだから、理想と現実とのはざまで苦しむ結果になるのである(苦笑)。

 『だれも知らない小さな国』が国産ファンタジーの金字塔と評価されることになったのは、もちろん異世界ものとしてのコロボックルの世界を生き生きと描いたこともあるが、一種の社会小説としても、青春小説としても極めて優れた側面を見せていたからである。
 シリーズはその後、『豆つぶほどの小さないぬ』『星からおちた小さな人』『ふしぎな目をした男の子』『小さな国のつづきの話』『コロボックルむかしむかし』と書き続けられて完結した。しかしその人気は衰えることなく、現在は、有川浩がシリーズを書き継ぐことになって、『コロボックル絵物語』『だれもが知ってる小さな国』の二作を上梓している。
 現在も、コロボックルの世界に目を見張らせている少年少女たちがいるのだ。

 『コロボックル物語』が、メアリー・ノートンの『床下の小人たち』(スタジオジブリ製作『借りぐらしのアリエッティ』の原作)の影響下で書かれたことははっきりしている。しかし、『床下の小人たち』が実は…という物語であったのに対して、『コロボックル物語』シリーズが、正反対のベクトルが主調となっていることは、両者を読み比べてみた人には明確に理解できることだろう。
 『コロボックル物語』は、『床下』へのアンチテーゼとして生まれた。どちらがファンタジーとしてより優れているかを簡単に判断することはできないが、佐藤さとる自身は、『床下』の意外な結末を激賞している(だからアニメ『アリエッティ』が結末を改変したことは残念でならなかった)。私は、ただ読者を驚かせればいいという、とってつけた感のある結末の『床下』よりも、静かな余韻を残した『だれも知らない小さな国』の方が、心にしみじみと残っている。

 もう一度、コロボックルシリーズが、原作に忠実な形でアニメにならないかと、ずっと願い続けている。
 片渕須直監督の『この世界の片隅に』を観ていて、主人公のすずさんと夫の周作さんが、「おちび先生」と「せいたかさん」に重なって見えた。それは何となくではなくて、ちゃんと根拠があることなのだが、ネタバレになるのであまり詳しくは書けない。原作のこうの史代さん、『だれも知らない小さな国』を読んでいたのではないかな。
 コロボックルの世界は、様々な形で後代に受け継がれている。これからも忘れ去られることはない。あの日の興奮を未だ忘れやらぬ身としては、いつまでもそう信じていたいのだ。

 合掌。




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