【回答】
まあ,結論から言えば陰謀論の類.
「トルコがダーイシュとつるんでいる」説を,真顔で主張している人も,いることはいる.
たとえば元駐シリア大使・国枝昌樹(文中敬称略,以下同じ)は,その著書『イスラム国の正体』(朝日新聞出版,2015)において,おおよそ以下のように述べている.
「コバニには占領する意味がない.
にも拘らず,ここにダーイシュが攻め寄せてきているのは,報道させるため.
トルコも戦いに消極的.
これはコバニは危ないと全世界に思わせ,トルコの主張(シリア問題はアサド打倒をまず第一に行うべき)を通すため」(p.210-217)
…正直,当方は何度読み返しても,これが何故「トルコとダーイシュがつるんでいる」ことの根拠であると言えるのか,理解できない.
この陰謀論の発信源は,どうやらトルコ国内のクルド人の間に飛び交う噂であるらしい.
「トルコ政府がスンニ派であるISISを支援している,と考えるトルコ国内のクルド人も多い」
(『Newsweek』 2014.10.21号,p.8)
という.
件の本の著者も,おそらくはそういう噂を真に受けたのだろう.
実際のところは,コバニは「占領する意味が無い」どころか,戦略上の要地である,らしい.
コラムニストのウィリアム・ドブソンは,次のように述べる.
「ISISがコバニを抑えれば,シリアとトルコの国境付近の広大な一帯を支配下に置くことになる.
北部のラッカから各地の拠点を結んで,シリア最大の都市アレッポに至るまでのルートを確保できる.
それ以上に重要なのは,国境地帯を支配すれば,外国人の戦闘員を集め易くなる上に,石油などの物資を国際的な闇市場に流し易くなることだ.
コバニの掌握で,ISISには今まで以上に多くの武器と人員と資金が流入する」
(『Newsweek』 2014.10.21号,p.17)
また,ダーイシュがクルド人を敵視することにも理由がある.
ダーイシュがまだイラクのローカル武装勢力であったころから,クルド人民兵には何度となく痛い目を見せられてきているからだ.
恨み骨髄というやつだね.
トルコがダーイシュ対策に消極的な時があるのは,やはりクルド人問題があるからで,ダーイシュにのさばられては困るものの,逆にクルド人が過度に力をつけて,クルド独立の機運が高まるのも歓迎したくない.
トルコ国内でもクルド地域に積極的に経済投資を行って,懐柔政策に務めているくらいだ.
なので時として消極的になったりする.
もう一つ,トルコの姿勢としては,結局,その場の局面局面でダーイシュを叩いても,根本的な問題解決にはつながらないからきりがないと考えている.
なので,アサド政権を打倒して,安定的な政権をシリアに立てることが,回り道のようでも結局はそれが一番だ,と.
この辺の微妙な舵取りは,エルドアン政権の政治判断に委ねられているのだけれども,バランス感覚の問題なので,どっちに転んでも,まあ批判されるよね.
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