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2012年11月16日04:39

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【芸能】北野 武『アウトレイジ ビヨンド』インタヴュー

 北野 武監督の最新作『アウトレイジ ビヨンド』は、ナンセンスでバイオレントな爆笑ブラック・コメディだった前作『アウトレイジ』を伏線に緻密な脚本を練り上げ、前作で撒き散らした暴力の”おとしまえ”を監督自らが着けようとしたかのような、因果応報が巡る秀逸な人間ドラマに仕上がっている。

 北野 武が明白に娯楽作品としての”面白さ”を追求した本作には、前作からの成り上がり組:山王会の加藤(三浦友和)、石原(加瀬 亮)、舟木(田中哲司)と、生き残り組:大友(ビートたけし)、木村(中野英雄)、マル暴の刑事(片岡(小日向文世)、繁田(松重豊)に加え、新たに登場する関西ヤクザ花菱会の面々(神山 繁、西田敏行、塩見三省、高橋克典)や中尾 彬、名高達郎、菅田 俊、光石 研、新井浩文、桐谷健太といった味のある俳優陣が嬉々として加わっており、この男の前で自分の演技を見せたいという彼らの異様なテンションが、21世紀的なリアリティに満ちたヤクザ映画の傑作として結実している。

 前作の成功を受けて、順調に製作が走りかけていた『アウトレイジ ビヨンド』は、2011年3月11日の震災を経験し、制作を一旦中止、1年後にスタッフ全員が再会を果たすことを約束して解散したという。その丁度1年後に満を持してクランクインしたという”間”があったことも、本作の重厚な内容と本質的に関係があるように思えた。

 今回のインタヴューでは、その辺りの実際についても聞く事ができたのだが、何より、本作のクライマックスというべき、花菱会に大友と木村が乗り込んで行き、怒鳴り合う<言葉の格闘技>シーンが、どのようにして作られたかということについて、少し踏み込んで話を聞くことができたのはとても収穫だった。

 ”天才”と言われる北野 武が、この素晴らしいシーンを作り上げるまでに、どれほど繊細かつ大胆にフィルムと向き合ったことか。
 そして、同時に「真面目に映画を作ろうなどと考えないでください」「あまりにも平凡で陳腐でアメリカ的だからカットバックは恥ずかしいものです」といったオタール・イオセリアーニ監督の非凡な言葉を、北野 武はなんと自然に実行していることか。映画監督・北野 武の黄金期はいま、始まったばかりなのではないだろうか。

<1. 大阪弁と関東弁の罵り合い、漫才のような「言葉の格闘技」をやりたかった>
 Q:監督が、続編という形で作られるのは、今回が初めてのことだと思います。続編ということで、前作を観たファンの方が比較をしたり、どんな作品になるんだろうと期待値が非常に高まると思いますが、そういう意味では通常の作品よりもハードルが上がるのではないかと思うんです。今回の作品を監督するにあたって、その辺についてはどのような思いがあったのでしょう?
 北野 武:前作はそんなにハードル高いわけじゃなくて、低いところから始まってるからね。自分ではストーリー的に面白いなと思ってて、(映画の)評判も良かったんだけど、なんか暴力描写ばっかり話題にされて、ストーリーにあんまり触れられなかった。じゃあ、もうちょっとエンターテイメントらしく、ストーリーに裏切りだったり、ひっくり返ったり、予想以外のことが起こったりというサスペンスを増やすかっていう。エンターテイメント性を暴力以外のものでより表現するということにしたかな。
 
 あと、台詞を増やしたことで、前作よりは数段エンターテイメントができただろうとは思う。
 そもそも続編は『アウトレイジ』撮っている最中に「続編が出来たらどうなるだろう」ってスタッフと盛り上がったんだよね。だから、前作を撮りながらも、続編のことは少し意識していたかもしんない。それで『アウトレイジ ビヨンド』を撮ることになってから、今回のストーリーにしたんだよね。
 脚本を書く段階ではもちろん役者は決まってないんで、場合によっては役を作んなきゃいけないこともあった。でも、基本的には苦労はあんまりしてなくて、今回のほうが自分で作ってても面白かったなって思うよ。
 Q:これまでたくさんの作品を監督されてますけど、続編もあるなって思われたのは今回が初めてでしょうか?
 うーん、たくさん作ったけど、要するに『HANA-BI』(97)なんかはまあまあ評判もよかったけど、『HANA-BI』の続編なんてないからね(笑)、死んでんだから。『座頭市』(03)はヒットもしたんだけど、いろんな“座頭市”も出てきちゃってるしね、もういいかなって。
 Q:楽しんで作られたって今おっしゃったんですけれども、前作の内容をかなり引き継いで脚本が凄く緻密に作られていて、その緻密さが今までの北野監督の作品の中でも群を抜いてるんじゃないのかなと思ったんですけれども。
 実は「2」って言われるのは嫌いで、でも『アウトレイジ』っていうタイトルは決まってるわけだし、『アウトレイジ2』だと嫌だなって思ってたんで、『アウトレイジ ビヨンド』にした。
 
 前作の流れを汲まずに続編はできないと思ったんだけど、(前作を)観てなくても楽しめるっていうふうに台本を作ったつもり。まあ、台詞で前作の内容をしゃべらせたりしてる時もあるんだけど(笑)。だから、これはこれで独立して観られるようにして、なおかつ前作を観てたらより面白いだろうっていう。
 あと、基本的に俺が主役ってわけでもないんだけど、大友(ビートたけし)が生きてたというとこから始まるんで、物語がどう動くのかっていうのをやるんだけど、大友がイケイケだと単なる復讐戦になってしまうんで、周りの警察とか関東や関西のヤクザとかが大友を巻き込むことにした。
 
 何故、関西のヤクザが登場するかっていうと、大阪弁と関東弁の罵り合いをやってみたくて(笑)。漫才のような「言葉の格闘技」をやりたいっていう。
 登場人物は多いんだけど、相関図に役者さんの写真を並べて構図を作るところからはじめて。それでこっちのキャラクターがこっちに裏切られて、一方でこっちはこっちを潰そうとしてた、とか考えていって、かなり緻密に練ったね。そういう意味では大変なこともあったけど面白かったね。
 <2. したたかな人には好きにやってもらって、編集で間を詰めた>
 Q:今回の作品も前作もそうなんですけど、言葉の量が多いのが大きな特徴ですし、ひたすら罵り合いが多いと思うんですけど、今まで監督の作品は言葉の数をどれだけ減らしていけるかっていうところでずっと表現されてきたと思います。
 逆に今回は、言葉の数を増やす、どこまで増やすのか、どこまで抑えるのかっていうところで実際に脚本を書いて、撮影していく中でアドリブで増えていくところもあると思うんですけれど、言葉の数をどこまで増やすのか、基準みたいなものはありましたか?
 基本的に役者さんはアドリブ無しで、ほとんど脚本のまんま演じてもらったよ。元々初期の監督作品っていうのは、普段、漫才で喋ってるから、映画ではあまり喋んのは嫌だってのが多かった。「見りゃ分かるだろ」っていうのがあって。
 ところが、この間テレビでお笑い番組をみたら、タレントが喋ってる言葉にぜんぶ吹き出しテロップが出てるでしょ。耳の不自由な人に対するサービスとしてならわかるんだけど、「ワッハッハ」って笑っている映像の下に「ワッハッハ」て吹き出しテロップを出してて、これ何だよ、ここまで教えるのかって。
 ただ、テレビがそこまでやってるのに、自分の映画で「台詞がなくてもわかって」ってやってもこりゃ無理かなって思った。もちろんエンターテイメントとしてはね。
 違うジャンルの映画はそれでもいいと思うけど、今回みたいなエンターテイメント作品は、はっきり喋って教えてやんなきゃいけないって意識したよ。感情を表現する時に、相手をただ睨みつけるんじゃなくて、「何だその顔はコノヤロー」まで言わせたっていうのはあるよね。
 Q:たくさん喋りまくることによって、喋ってること以上になにか怖いよりも怖さを超えた一種面白味というか、これ笑っていいんだろうかっていうなんか凄く不思議な感じにすらなってくる。
 怒鳴りあいを過度に観させられると、だんだん笑うしかないってなるかもね。
Q:最初から脚本書きながらやっぱりそうなるなという感じですか?
 今回は役者さんが「出たい」って言ってくれた人が多いんだけど、台詞喋らせると、みんなしたたかな人ばっかりなんだよ(笑)。上手いからいいんだけど。
 じゃあってことで、したたかな人には好きにやってもらったよ、編集で変わったシーンもあるけど(笑)。
Q:入ってない(笑)。
 編集では間を結構詰めたね。役者さんてみんな自分の間も持ってるんだよね。人によっては(顔をつくりながら)こーうやって間をもって(芝居を)やるんだけど、こっちの狙いと違う時もあって。
 罵り合いのシーンでは、漫才のようにじゃんじゃん怒鳴り合いをしたかったんだけど、やっぱりお互いに間をもったんで、それを編集で詰める作業が大変だったね、面白かったけど。
Q:クランクインの直前に大震災が起こって撮影が一旦中止になって、ちょうど一年後に撮影が開始されたと伺ってるんですけど、その一年の間に作品自体のシナリオとかアイデアとか、監督自身の映画にかけるテンションとか、何か変わったものはあったんでしょうか?
 やっぱり、一年で随分台詞が増えたよね。あとは高橋克典君が「出してほしい」って言ってくれて。
 ただもう台詞のある登場人物がないよって言ったんだけど、「なくてもいいです」って言ってくれて。それで殺し屋の役にしたんだけど、いかに目立たせるかとかを考える時間があったよね。
 話の筋としては変わってないけどちょっとしたニュアンスとかシーンを外したり増やしたりして、一年でよくなったっていうのはある。当初の台本だともうちょっと荒っぽかっくなってたかもしんないね。
Q:当初は前作からあまり時間がなかったわけですが、逆に二年という間があいたわけですね。
 うん、逆に台本チェック何回も出来たんで、もっと面白くできるなっていうのに気付いたり。特にラストシーンなんかは、この手があるってなかなか気がつかなかったからね。
 撮影の半年くらい前に思いついて、良かった良かったと思って。そのまま撮影してたら違うエンディングになってて、今の「えっ、こうなるんだ」っていうのが無かったかもしれないね。
 <3. 健さん、鶴田さんの任侠映画、深作さんの『仁義なき』シリーズ、その後、Vシネで右に反れたラインを真っすぐこう持ってくると『アウトレイジ ビヨンド』になる>

 Q:映画のスタイルというところでちょっとお聞きしたいんですが、今回のはかなりジャンル映画的と言いますか、フランスのジャン=ピエール・メルヴィルとかのフィルム・ノワールだったり、あるいは、会話劇というところではマーティン・スコセッシとか、そういう感じ受けたんですが。
 まあ、アメリカ行けば「マフィア」の話になっちゃうんで歴史的に日本と違うし、スタイルも違うから比較が難しいけれども、多分、そう感じたのは映像的なもんだと思うね。
 銀残し(本来の銀を取り除く処理をあえて省く事で、フィルムに銀を残す現像手法。市川 崑監督の『おとうと』(60)で初めて使われ、その後、世界中で使われるようになった)で色をかなり抑えてるから、意外と白黒に見えるっていうかね、色は出てるんだけど、かなり照明さんとカメラマンで色抑えたんだよ。
 ただ、フランスっていうかヨーロッパの映画に近いって感じるのは、女子供を画面に出してないっていうところかもよ。ハリウッド映画と違って、いわゆる“マフィアのファミリー”の話だけど、なるだけ男だけっていうかね、余分なものは出さないっていう。『アウトレイジ ビヨンド』でも家庭とか一切出さなかったんで。どっちかって言ったらヨーロッパに近いかもね。
Q:警察とヤクザが実際のところは繋がってるっていうのもフランスのフィルム・ノワールでよくある型で、フランスのノワールのルーツを遡るとレジスタンスの頃の国家権力に対する怒りがベースにあって、今回の『アウトレイジ ビヨンド』の場合も、そういう怒りがあるのかなあと思ったんですけど。
 日本のヤクザ映画の流れは、(高倉)健さんとか鶴田(浩二)さんとかの任侠映画がまず全盛時にあって、今度は深作(欣二)さんの『仁義なき』シリーズがある。それから、ちょっと逸れてVシネもあるんだけど、ヤクザ映画の流れは深作さんで止まってたと思うよね。
 進化のグラフがあるとしたら、深作さん以降、Vシネで右に反れたラインをね、真っすぐこう持ってくると世界観は『アウトレイジ ビヨンド』で描かれているものになると思うんだよね。任侠、深作、『アウトレイジ』のラインだと思うよ。
 警察を描くにしても、報道でながれる事件見てびっくりするじゃない。警官が覗きやったり、ヤクザと癒着してたりね。だから実際に日本でももうそういう事件がいっぱい起こってて、ストーリー的にもリアリティを失わない時代になってきたっていう。ヤクザが暴対法で縛られてきてはいるけど、今や企業に手を出してきていて、ドンパチよりも株とかで儲けるっていう。そういうヨーロッパ的なヤクザを描いても違和感のない時代になってきちゃったんだよね。
Q:健さんの時代の任侠映画があって、深作さんの『仁義なき戦い』(73)があって、今『アウトレイジ』が、全く密度の違うものの中にあって、同時に大友というキャラクターがもの凄く不思議な感じを受けます。今回構想していて、純粋にエンターテイメントでいくならば、大友が復讐するというキャラクターにすることも出来たと思うんですけど、実際復讐はするんですけど、復讐を成し遂げたあとはよろしくってパッと帰っていくっていう大友像はもの凄く印象に強く残るんですけれども。
 結局、復讐の話だと、前作同様の山王会って関東だけの話になってしまうし、大友が木村(中野英雄)とやり合う話にしかならない。そうすると関西も出て来ないし、次は山王会に対するリベンジだけで話があまり進まない。だから大友にそもそもやる気がない話にした。
 自分の組は潰されたし、子分も全滅してる。引退するつもりだったのに、そこで片岡刑事(小日向文世)が出てきて、大友を利用しようと引きずり出しちゃうんだよね。警察は関東ヤクザの勢力を弱めるために関西ヤクザへ顔を出したり動き回ったりしてて、関東ヤクザは身内に亀裂が入ってて。そこに大友が巻き込まれることでストーリーが広がるんだけど、大友は好きで出てきたわけじゃねえんだっていう(笑)。
<4. 大島(渚)さんが「アップを多用するのは一番下手な監督だ」って言ってた>

Q:撮影について伺いたいんですけれども、監督の映画はいつもフレーミングが凄く特徴的に見えて、人が映ってる場面ももちろん怖いんですけど、『アウトレイジ』を観てると車が家の中に入っていくだけでもの凄く緊張感があります。実際にカメラマンは柳島(克己)さんがずっとやられていますけど、未だにその撮影現場で覗いてみて違うなって思う場合があるのかという質問と、実際に映画をフレーミングする時に自分でも他の人とはちょっと違うなと思われたことはありますか?
 映画の撮影って、こう撮ったら次はこう撮るっていう基本の形があってね。カメラの位置関係とかも決まってるパターンがあるわけ。俺の場合はそれを教わってないし、いいやって思ってるところがあるから、昔はカメラマンに「そんなの駄目ですよ」「目線が入れ替わってますよ」って言われてね。対話のシーンとかでしゃっべる方の切り返し(イマジナリーライン)とかよくあるじゃない。
 でも今回はわざと逆に人物を置いたりしてみた。ちょっと違和感があるような、明らかに間違ってはないってんだけど、どこかあれ?っていう感じのね。
 
 『その男、凶暴につき』(89)では、わざと実験的に撮ってみたってのがあって、それはやっぱり最初の映画で馬鹿にされたくないっていうのがあったんだよね。 “お笑い”出身の人間が映画撮ったら何て言われるか分かんないし、だから、かなり無茶したんだよ。
 例えば歩いてるシーンで、ここ(胸)から下だけを映してくれとか、絶対首入れるなとか。でもどうしてもカメラマンのフレームが顔を入れるように上がってくるんだよね(笑)。当時のカメラマン(Catsduke注:佐々木原保志のこと)は「それやったら僕は映画界にいられなくなる、恥ずかしくてしょうがない」って言うから、恥ずかしくたって言う事聞けって揉めたんだけど。
 
 次からずっとやってもらってるカメラマンの柳島さんは、「いいんですかそんな事して?」って言いながらも撮ってくれる。『ソナチネ』(93)では、夜に車が走るシーンを撮影したんだけど、カメラが少しグラグラしちゃったのね。失敗したからもう一回やらせてって柳島さんが言ったんだけど、俺はOKをだして嫌だって言ったの。そしたら「お願いしますよ、これ、腕が下手なだけですから」って(笑)。
 結局そのままのカットを繋いで完成したら、そのシーンが海外で褒められたりしててね。「あのカメラワークの不安な状態が、暴力の世界に入っていく不安な状況を映し出した、あのカメラワークは凄い」って書いてあって、ただ失敗しただけなんだけど(笑)。
 本人に見せたら頭掻いて言ってた、「失敗したのにしょうがないなー。上手く撮ったら何も言われないのにねえ」って笑ってたけど。
Q:実際こうカメラ覗いてみて近いなって思う事ありますか? 人の顔がいつも近く見える、通常の映画に比べて監督のフレームは少し遠くてそれがいつも僕の中では不安に感じるのかなっていう、今回も凄く罵り合うんですけど、通常のヤクザ映画であればもっと寄るだろうというところを寄らないことによって逆にもの凄く恐ろしくなるし、それがちょっと面白さになったり。
 俺があんまり寄るカットを撮らないのはね、大島さんの『戦場のメリークリスマス』(83)の時に監督と一回飲んで話した事あるんだけど、映画論の話になって大島さんが「アップを多用するのは一番下手な監督だ」って言ってたのね。それがどうも残っちゃってて。
 昔はもっとひいた画ばかりだったね。アップでもこれ(バストアップ)ぐらいだったから、今でこれ(クローズアップに近い)ぐらいになったけど。このサイズは、相当下手だよって言ってたから、それがトラウマになってるかもしんない。
<5. プラモデル買ってきてキットが足りなくて、あれタイヤがねえじゃねえか?ってときに、ハンドルが付いてるってことがある。笑>

Q:キャスティングですけど、『アウトレイジ』の前作も豪華なキャストが出演されて、その豪華なキャストもぼろぼろっと亡くなっていきます。今回もまた豪華なキャストが新たに加わってるわけですけれども、その辺のキャスティングっていうのは先ほどおっしゃったように出してほしいっていう役者さんもいるし、監督さんが出てほしいっていう役者さんも当然いただろうと思うんですけれども。
 基本的には俺の映画に「出てもいいよ」って言ってくれる役者さんだけなんだけどね。キャスティングの吉川さんがいつも役者さんの写真を持ってきて打合せをして決めるんだけど。西田(敏行)さんは裏で「たけちゃん頼むよ」なんて前から言ってくれてて、塩見さんも「出たい」て言ってくれてて。
 だから、今回は神山(繁)さんぐらいかな、頼んだのは。大阪弁の出来る会長役を探してて神山さんからもOKが頂けてね。それからは相関図作って、役者さんの写真を置いて、登場人物の関係性からストーリーを膨らましたらしたね。撮影になると役者さんがみんな凄く協力的で、真剣にやってくれたから、かなりノってやってくれてたし、みんな喜んでくれたと思うよ。
Q:キャスティングでなかなか適役が見つからないとか、そういう事でご苦労されることは今回はなかったっていうことですね。
 キャスティングはね、全然苦労しなかったんだけどね、編集が大変だったね。怒号の罵り合いのシーンでは間を詰めたりね。場合によっては俺がオフで怒鳴りを撮り直したりね。最後の方はどうにかなったけど、頭の方のシーンでは編集を何回もやって、相手の言った言葉尻ですぐ台詞入るようにしたり、それはもう編集した。編集がやっぱり面白かったけど苦労したね、各自が自分の芝居の特徴があるんで。
Q:その特徴が凄くよく出ていたと思うのが、花菱会に大友と木村が乗り込んでいった今仰っていたシーン、怒鳴り合いのシーンだと思うんですけど、素晴らしいシーンだったと思うんですが、監督はご自分で出演されて、演出家として見てOKを出す基準はどういうものなのでしょう?
 台詞があまりに酷い間違いの場合は撮り直すこともあるけど、俺は編集権持ってるんで、やなとこは外すっていう(笑)。俺の下手な演技は全部とっちゃったり。
 だからあのシーンの役者さんは間をもって本当はやってて、台詞聞いて暫く喋んないで「なんやこら」ってやるまでに時間かかるから、でも「なんやわれ、ボケ、カス」なんて言う台詞の間がないと大阪弁になってない時がある、でもそれをどうやってとるかとか、あそこはうわーって一気にいきたかった。そこを編集でいかに詰めるかっていうのが大変だった。
Q:その編集の大変さっていうのは、あと何コマ詰めるっていうレベルの大変さですか?
 要するに2カメぐらいで撮ってるんだけど、編集で実際そのシーンじゃないカットを入れる時はあるよ(笑)。睨んだ顔が欲しいんだけど、全く違うシーンで撮った顔を持ってくるのね。そこに台詞をかぶせて、本来のシーンの映像と組み合わせて、ひとつのシーンを作っちゃう。
 だから、プラモデル買ってきてキットが足りなくて、あれタイヤがねえじゃねえか?ってときに、ハンドルが付いてるってことがある(笑)。ただよーく見ると違うじゃねえかって。それは編集マンと俺しかわからない、観てても絶対気が付かないと思うけど。
Q:じゃあDVDとかで見たらひょっとしたら。
 うん。音声がオフで入ってたり、実は間を詰めてるな、くらいは分かるかもしれないね。

 OUTSIDE IN TOKYO
 http://www.outsideintokyo.jp/j/interview/kitanotakeshi/index.html

*インタビュアーがマトモな映画知識を持っていると、ここまで話が引き出せるという見本のようなインタビュー。
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