第2章 大草原 レドラスとの国境近くの荒野のただ中に、激しく打ち合う音が響いていた。 激しい気合とともに一閃した褐色の稲妻を、皮一枚ぎりぎりでやりすごした巨体の繰り出す黒い旋風が打ちすえた。木が折れたとは思えない音とともに木刀が砕けた。
『人狼』〜『アルデガン』外伝2〜 ふしじろ もひと 第1章 焼け落ちた村「これが……、これが人間のしたことなのか」 斬首された村人たちの死体の山を前に赤毛の若者は呻いた。 アルデガンがレドラスからの巨大な
第3章 最果ての森 その2 終わった時、月は大きく傾いていた。 乙女は呆然と緑の目を見開いていた。「これが私の過去と今。私は自分のことを忘れなかった。だからこんな道を歩んできたわ……」>……私が自分のことを覚えていたら、こんなふうに苦しん
第3章 最果ての森 その1 風がその森から吹き寄せていた。残照の消えた夜空よりもなお暗い深い森の揺れる梢を風が吹き渡っていた。 風が吹き梢がざわめく。あたりまえの光景のはずだった。 しかし風は強い妖気を帯び、ざわめきはそれ自体の法則に従い
マイミクのAstray様の手になるファンタジー小説『かがり火の旅路』第5話がアップされました。 『かがり火の旅路』#05http://mixi.jp/view_bbs.pl?comm_id=3595226&id=81551720カレル少年を助けた術者セルウィリア。過去の戦いでは一方ならぬ働きをしたこ
第2章 荒野 大陸の西のはずれに広がる広大な森の近くの荒野のただ中で、魔物たちが真昼の太陽の下に身を寄せ合っていた。 岩のような体表をした巨人が太陽に背を向けて立ちはだかり、高い太陽を遮るわずかな日陰に大きなものが小さなものを守るように密
第1章 山道 その2「もう少し待って、少しだけ……」 魔物たちの輪の真ん中で、リアは呟きながら殺めた若者の顔を凝視していた。大陸西部のこの地方に多い髪の黒い精悍な顔を、彼女は脳裏に刻みつけた。 やがてリアは立ち上がり、魔物たちの囲みの外へ
『黄金の髪の乙女たち』〜『アルデガン』外伝1〜 ふしじろ もひと 第1章 山道 その1 恐ろしい敵がルザの村に近づいてくるとの知らせに決死の覚悟で飛び出してきた若者たちを待ち受けていたのは、戦いなどとは呼
マイミクのAstray様の手になるファンタジー小説『かがり火の旅路』第4話がアップされました。 『かがり火の旅路』#04http://mixi.jp/view_bbs.pl?comm_id=3595226&id=81504735カレル少年を救った魔術師セルウィリアはイーグニスという号を持ち、うら若き
第3部 燃え上がる大地 第11章 エピローグ その2「前にいったであろう? 私自身が解呪の技を発動できずにいるのだと」アラードをまじまじと見つめてグロスがいった。 ラーダ寺院の地下にある霊廟だった。グロスはこの三日間ここに篭り続けゴルツ
第3部 燃え上がる大地 第11章 エピローグ その1 三日間にわたって燃え盛った炎がようやく下火になったとき、アルデガンは変わり果てていた。 結界の源だった宝玉を収めたラーダ寺院の尖塔は崩れ、魔物を封じていた岩山は完全に姿を消していた。
第3部 燃え上がる大地 第10章 野営地 レドラス軍がノールドの国境を越え攻め込んだのは、火の玉にやや遅れてのことだった。 砦の軍勢は低空をかすめる巨大な火の球の飛来に浮き足だち、レドラス軍の侵攻に組織的な対処ができなかった。たちまち砦
第3部 燃え上がる大地 第9章 アルデガン その3「リア……」アラードは呻いた。二、三歩前に歩み出た。だが、塔の上でのあの恐怖がよみがえり、その歩みを押し止めた。そのとき、翼持つ守護者の思念がリアに呼びかけた。>汝、人間の姿と心を持つ者
第3部 燃え上がる大地 第9章 アルデガン その2 アラードたち三人はラーダ寺院へと駆けた。だが走るのが遅いグロスは遅れ、アラードとリアが尖塔に跳び込み螺旋階段を一気に駆け上がった。 リアが先に宝玉の間に着いた。しかし彼女は部屋に一歩入
第3部 燃え上がる大地 第9章 アルデガン その1 叫び訴えるリアと解呪しようとするゴルツの様子にアラードは何かがおかしいと感じた。ラルダのときと違う! 彼はグロスを見た。グロスもアラードを見た。その顔が蒼白になっていた。「解呪の技が正
第3部 燃え上がる大地 第8章 屋上 アザリアが意識を取り戻したとき、あたりは宵闇に閉ざされていた。起こそうとした上体が折れたあばらの激痛に崩れた。一瞬振り仰いだ目がかろうじて夜空の様子を捉えた。 西と北の二箇所に赤い残照が映えていた。
第3部 燃え上がる大地 第7章 洞門前 リアが洞門に辿りついた時、空は燃えるような朱に染めあげられていた。 夕日がちょうど沈むところだった。岩山と城壁に囲まれた砂地には影が落ちていたが、城壁は沈む夕日を照り返していた。 暗闇の中で転化し
第3部 燃え上がる大地 第6章 地下火山>かの者の力はあまりにも強大だった< 金色に輝く人面の竜のごとき魔物の思念が告げた。>もともとは怪物の餌食になる仲間を救いたい一心で戦い始めたといっていた。だが、その力は自身の予想を超えて強大だっ
第3部 燃え上がる大地 第5章 王城 アザリアはレドラス王ミゲルに続き、近衛兵に両脇を挟まれたまま長い階段を登りきった。侍従が重い扉を開けた。 太陽の光がまともにアザリアの目を射ぬき一瞬なにも見えなくなった。風が吹き込むと同時に異様なわ
第3部 燃え上がる大地 第4章 最下層 リアが辿り着いたのはこれまでの中で最大の空洞だった。幅や奥行きもさることながら高さがずばぬけて高く、噴煙でけぶっているため天井の様子が見て取れないほどだった。 ここには人の手による加工はおろか、不
第3部 燃え上がる大地 第3章 レドラス アザリアを乗せた馬車がレドラスの王城ドルンに到着したのは午後になってからだった。 巨大な城だった。しかもまだ築かれて年数が浅いようだった。高さはさほどなく尖塔の類いも少ないが、巨大な切り株のよう
第3部 燃え上がる大地 第2章 洞窟下層 暗闇の中で、大きな飛竜と華奢な少女が向きあっていた。 大きさや姿の点でも洞窟にいるのが明らかにふさわしくない飛竜の苛立ち、その心がリアには手に取るように読み取れた。洞窟の中では広げることもできぬ
第3部 燃え上がる大地 第1章 国境 アザリアは東の王国イーリアから南の大国レドラスへ入る国境にいた。 アルデガンを旅立ってから二ヶ月になろうとしていた。最初に北の王国ノールドに立ち寄り宝玉やレドラスに関する情報を交換し、次いでイーリア
昨年4月に義父が亡くなりましたので新年のご挨拶は失礼させていただきますが、定年まで残り2年余りとなりましたので今年はとにかく自分も周囲も大過なく過ごせることを願いつつ過ごしてゆきたいと思っています。そんなわけで本年はまず、旧年中に改稿をすま