『誰じゃろぅ、、』と、母がいぶかしげな声を出せば、『こがな時間に、まさか、汲み取りのモンじゃぁねかろ』と父が答えた。母は鶏肉を食べあぐねている俺を見て、『あなた食事中ですで』と遮った。当時はまだ、俺達の家の近辺で、水洗便所には変えている家は
実伯父の豹変ぶりに、祖母は、最初のうちこそ、少しうろたえたような顔をしていたが、やがて、何かを察したように、『まぁ実さんがええ言うんならええけんど』と言った。すると、それまで黙っていた父が、再度『なんじゃと!』と色めきたつと、『ワシがあれほ
母の発言に美保子叔母は『何、言いたい事て、、遠慮せんと言うたらええが、、』とのんびりとした口調で聞き返したが、祖母と実伯父は驚いた顔をした。それは服従をちかっていたシモベが、まさかの反抗を試みたのを知った主の驚きに似ていた。一瞬、祖母と実伯
雪割り桜 空を見上げて知ったんだ 君は心に生きてると いつの日か ふたりこうして来たかった 雪割り桜の北の国 一人で来たよ 君のぶんまで 春の気配
巴里で 若くない 美しくさえもない 手鏡をのぞくたび そう思う とりたてて不幸とも思わない そんな時 現れたあなただった、、、 巴里で この僕と暮らそうと 抱かれて 耳元 そう言われた 心のどこかしらに
紆余曲折 決して好みのタイプじゃないし むしろ嫌いなほうだったから 口さえきかないつもりだった 、 俺は,俺は、と言う顔をして 強いていうならば上から目線 よくない噂も聞いていたし、、、 ああ、そんなあなた
街角 人影 まばらな 夜の駅前交差点 あの子によく似た 誰かを見かけた 胸が 胸が 痛んで タバコもにがい 夜風がしみるよ 幸せはぐれの 街角 あの子に言ったよ
波止場の噂 波止場のはずれの店で あなたの噂を聞いた 今でもひとりでいるそうだと 言い寄る男はゴマンといるけど 笑って手をふり あしらうそうだと、、、 酔いどればかりの店
純情 例えば君へのこの想い したたるしずくの水芭蕉 絹に似ている風に吹かれて 淡い日差しに咲いている 、、、 声もかけずに ただ遠くから じっと見ていた ああ 僕だった、、、 短い夏なら
だから追いかけて それはあの人を 泣かすだけだから 耐えるべきだと人は言うけど ボクには無理な話しさ、、 忘れる事だけが 本当の愛ならば ボクの愛は 若さだけの
冬の旅人 冬の旅人が 遠い星明かり それを頼りに 旅するように 辿り着いた 君だから、、、 心が癒えるまで ボクの胸の中で 泣けばいいさ 泣けば
守礼の門 きっとあなたは置き去りにした 人をしのんで眠りかね 汗ばむ肌で私を抱いて 許してくれと言ったのね 忘れるつもりの そんな守礼の門 あなたはどこを 見てるのでしょう? どこか哀しい島唄に似た 暗
祖母の冷笑に、父はそれまでの勢いを失い、にわかに、水をかけられたようになった。『もうええ、、あんたらぁを相手にしても仕方ねぇ』しばらくすると父はそう言い、苦々しげな顔をして、ヨコを向いた。祖母は何か言いたそうにしていたが『は!自分が負けそう
沖縄心中 肩先に中途半端 消えかけのタトゥがある Mの頭文字の人は どこでどうしているかしら あなたに抱かれるそのたび それが目につく私よ きっとその人も今頃 不幸になっているはず ああ
夢見心地 どうすればあなたの事を 奪い取る事ができる? 白い煙草 口にくわえ 夢見心地に問えば ああ、いきなりこのボク ああ、いきなり抱きしめ 明日の事など 明日にしましょう あ
泣き虫小僧 夜を切り売りするだけの 一夜限りの恋ならば お手のモノだと嘯いて 肩で風切る ヒルズ前 だけど 貴女と 知り合った あれからすべてがチグハグで 泣き虫小僧の 昔のように
そのうち、俺の帰って来た事に祖母が気づき、『お帰りんせ』と言った。そのはずみで、美保子叔母が俺の方を見た。黒ずくめの美保子叔母だったが、どこか、異様な気配の、華やかさを発散していた。それは、首や耳のあたりでゆれている真珠の多さが、そう見させ