かっさんは、『そこ座っときね』と、俺に言うと、あぜ道を飛ぶように走って行った。おじさんは、俺達の声のする方に顔をむけ『ミユよ、ミユよ』と舌ッ足らずな物言いをすると、『そこにおるんはダレなら?ヒトシか、ヒトシでも来とんか?』と言った。おじさん
畑の外れからは遠く瀬戸の海が見えた。崖際に腰をおろしたかっさんと俺は、黙って海を見ていた。夕凪のせいか、海はおとなしく、きらめく布を広げたようだった。海の手前から人家がグングンと密集しているのが見え、その中でひと際、背の高い建物が俺達が通っ
驚いた俺は思わず、矢車草の上に尻餅をつきそうになった。こんなところでかっさんを見かけるとは思ってもいなかったからだ。俺に見られているともしらず、かっさんは黙々と畑仕事に従事していた、畑仕事に従事しているかっさんの姿はいつもケーキ屋の店先で見
祖父の墓に行くのはじつに一年半ぶりくらいであった。祖父が亡くなった当初は一人でもよく通ったものであったが、先にのべた過保護事件いらい遠のいていた足だった。初夏を迎える頃だったので、小径は、我が物顔に伸びてきたたくましい雑草に、左右から邪魔さ
その夜、俺は祖父の夢を見た。それは、和式便所の前に幼い俺をすわらせ、扉をあけたまま用を足して祖父の夢だった。祖父は片時も俺を離したくなかったようで、夢だけではなく、実際、そのような事をしばしば行っていた。そんな祖父の振る舞いを、俺はことさら